開会式直前の関係者“辞任ドミノ”に始まり、メダル候補のまさかの敗戦やダークホースによる下馬評を覆しての戴冠劇、コロナ禍で開催され、明暗含めて多くの話題を呼んだ東京オリンピック。ついにその長い戦いも閉幕しました。そこで、オリンピック期間中(7月23日~8月8日)の掲載記事の中から、文春オンラインで反響の大きかった記事を再公開します。(初公開日 2021年7月25日)。

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 大会組織委員会前会長・森喜朗さんの持論「女の話は長い」に見事な体当たり反証を行ったバッハ会長のロングロングスピーチ。

 その後の演目が全て後ろにズレ込んだ結果、とんでもなく深い時間に聖火ランナーの子どもたちを出演させることになり、Twitterのタイムラインに児童福祉法を心配する声があふれるという、あまり類を見ない開会式となりました。 

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東京五輪開会式でスピーチをするトーマス・バッハIOC会長 ©時事通信社/Rob Schumacher-USA TODAY Sports

 思い返せば、公式エンブレムの盗用疑惑、新国立競技場のデザイン白紙撤回、オリンピック招致をめぐるJOC竹田恒和前会長の汚職疑惑、トライアスロン会場となる東京湾の水質問題、笠地蔵的かぶる日傘、トイレに金の装飾を施した中世の選手村、はじけることを運命とされたバブル方式の崩壊、止まらない感染拡大、チケット購入者の個人情報流出、森喜朗の性差別発言、前演出統括・佐々木宏のオリンピッ“グ”etc。

 大映ドラマでもここまでトンチキな展開は見たことないので、事実は『スクール・ウォーズ』より奇なり、ということなのでしょう。 

 次から次へと信じられないことが起きる。今日起きたアンビリーバブルを翌日のアンビリーバブルが超えていく。不祥事や問題、炎上の数だけが世界新記録を更新する。 

 開会式での楽曲を担当していた小山田圭吾の辞任が報じられたのは、19日。開会式のわずか4日前。原因はクラスメイトに対する壮絶ないじめを得意げに語っていた過去のインタビューでした。その衝撃的な内容は瞬く間に拡散され、批判が続出。謝罪文を公表したものの、炎上は治まる気配を見せず、ついに辞任という運びになりました。 

 そしてその直後、インターネットを駆け巡ったのは、開会式の「ショーディレクター」小林賢太郎が過去に結成していたラーメンズのとあるネタ動画。「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」というフレーズにユダヤ人人権団体が抗議し、開会式前日である22日に「解任」が決定。サブカル・ウォーズ。わずか数日のうちに、開会式の音楽家と演出家が消えてしまったのでした。 

パラリンピック開閉会式の記者会見で小林賢太郎氏を紹介する佐々木宏氏(右)=2019年12月、東京都中央区 ©共同通信社

「こんなにひどいものがなぜ出版(VHS化)されたのか」音楽家と演出家の炎上に、多くの人がショックをあらわに。「こういうのが許された時代だった」「人権感覚が狂ってる」二つの真逆の意見がネットに散見されました。

 1976年生まれである私は「しょうがない」と「許せない」の間でグラグラと揺れ動いています。そして当時のサブカルに挫折した記憶がありありと蘇ってくるのです。 

美大卒コンビとして存在感を放っていたラーメンズ

「尖った笑いの時代」と称される90年代。『ボキャブラ天国』が90年代中盤から後半にかけて大ブームを迎え、ナインティナインや雨上がり決死隊が参加していたユニット『吉本印天然素材』が爆発的人気を博し、ほとんどチケットが取れないほど。

 天素(吉本印天然素材)はいいけど天素の弟分ユニット・フルーツ大統領は認めないと謎に息巻いたり、通っていた大学の学園祭でロンブーに依頼したらロンブーは忙しいからその代わりにDonDokoDonと雨上がり決死隊とガレッジセールが来るらしいと聞きつけ、急遽手伝いを申し出たり。

 暇でミーハーな学生時代の私はこのお笑いブームに飛びつき、できたばかりの銀座7丁目劇場や新宿Fu-や新宿ビプランシアター、シアターDなどにこれまた暇な妹と通うようになりました。 

 ラーメンズを初めて見たのもその頃。単独ではなく大手事務所主催の合同ライブだったと記憶しています。まだ『爆笑オンエアバトル』は放送する前で、でもライブシーンでは美大卒の異色のコンビとして存在感を放っていました。一方の私はまだお笑いライブ独特の雰囲気にも慣れておらず、緊張しながら初めてラーメンズの演目を見ました。