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「ノーと言うパワーの素晴らしさ」「差別をはねのけた」…賛否両論の大坂なおみらの行動が、米国で好意的に報じられたワケ――東京五輪の光と影

2021/08/16
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 アメリカでは黒人は長らく奴隷だった。アフリカから強制連行されて白人奴隷主の農場、ひいてはアメリカの経済興隆のために一生を搾取された。奴隷労働のほとんどは肉体労働であり、強靭な肉体を持つ若い男性の奴隷は重宝がられた。しかし白人男性は彼らの身体的な強さを恐れ、暴力を用いて絶対服従を強いた。

 一方、白人男性にとって女性の奴隷は身体的に恐れる必要はなく、かつ白人女性に無い「エキゾチックさ」を持っていた。奴隷主は欲望を満たすため、そして産ませた子供を奴隷として使う目的で女性をレイプし続けた。生まれた子は黒人と白人のミックスだが、黒人奴隷として扱われたのだった。

 女性の奴隷の中には奴隷主の屋敷でメイドや乳母をさせられる者もいた。奴隷主の妻が子を産むと、奴隷の女性に授乳させることすらあった。レイプの場以外では触れることすら忌み嫌った黒人に、我が子に乳を与えさせたのだった。自身も子を産んだばかりの奴隷女性は奴隷主の子に母乳を与え尽くし、我が子には与えられないこともあった。

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押し付けられる“ダブルスタンダード”

 このように黒人女性は奴隷主に身体も、精神も、意のままに操られたが、忍耐の限りを尽くして耐えるしかなかった。白人男性にとって黒人女性は「耐え」て「尽くす」ものとなった。これが形を変えて現在にまで連綿と受け継がれている。

©JMPA

 したがって2021年の今も、強く、聡明で、何かに秀で、自立した黒人女性が現れると白人社会はそれを受け止められず、排除しようとする傾向がある。もしくは間違ったことを行なっていると断罪し、罰する。

 ミシェル・オバマがファーストレディになったばかりの頃、「袖なしドレスを着て腕を出すのは品性がない」と批判された。実のところ、50年近く前にジャッキー・ケネディはノースリーブ・ドレスを愛用し、ファッショナブルと褒めそやされていた。白人女性であるケネディの腕は白人社会で美しいと認知されるものであったのに対し、黒人で長身、筋肉質なオバマの腕は白人社会が受け入れられないものだったのだ。