開会式直前の関係者“辞任ドミノ”に始まり、メダル候補のまさかの敗戦やダークホースによる下馬評を覆しての戴冠劇、コロナ禍で開催され、明暗含めて多くの話題を呼んだ東京オリンピック。ついにその長い戦いも閉幕しました。そこで、オリンピック期間中(7月23日~8月8日)の掲載記事の中から、文春オンラインで反響の大きかった記事を再公開します。(初公開日 2021年8月4日)。

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 大坂なおみ選手が東京オリンピックのテニス女子シングルス3回戦で敗退した日に、徳間書店の業務委託編集者が匿名の個人アカウントにて大坂選手を誹謗中傷するツイートを行った。わずか25文字に3つの異なる差別表現が含まれていた。

1)メンタル・ヘルス(心の健康)問題を抱える人を揶揄する「メンヘラ」

2)黒人を指す「ゴリラ」

3)外国人、または日本人と認めたくない人への「国に帰れ」

 このツイートは大きく批判され、早々に編集者の名が特定された。翌日、徳間書店は「人権侵害を伴う不適切な投稿」とする謝罪文を出し、当該編集者との契約を解除した。

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©getty

五輪中途棄権に激しい賛否両論

 女子体操界の第一人者であるシモーン・バイルス選手もメンタル・ヘルスを理由に五輪を中途棄権した。大坂選手と異なり、米国チーム所属のバイルス選手に対する日本からの批判はそれほど見受けられない。しかし本国アメリカでは両選手の言動に激しい賛否両論が巻き起こっている。

 テキサス州の副検事長は、バイルス選手の棄権は「身勝手で子供じみた国家の恥だ」とツイート。ツイートには1996年のアトランタ五輪で足首を痛めながらも跳馬に挑んで米国チームを優勝に導き、足をギプスで固め、コーチに抱きかかえられて表彰台に向かったケリー・ストラッグ選手の動画が添えられていた。

 公的立場にある者のこのツイートは批判され、副検事長は謝罪を余儀なくされたが、同じ映像は複数の一般人によってもSNSに挙げられている。

シモーン・バイルス選手 ©getty

黒人女性は「耐え」て「尽くす」ものというステレオタイプ

 この2件は一見、オリンピックにおける「国を代表する資格が無い」、および「国を代表しておきながら安易な棄権は許されない」といった「愛国心」と「根性論」にまつわる批判に見える。だが、両選手が共に黒人、しかも女性であることに注目する必要がある。

 アメリカには奴隷制に由来する黒人、わけても黒人女性への固有の偏見と差別が今の時代にも根強く残っている。そのひとつに、黒人女性は「耐え」て「尽くす」ものだというステレオタイプがある。以下、このステレオタイプが生まれた背景を見ていこう。