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 今大会は「敗者復活戦」により、敗戦をしても頂点が狙えるトーナメント。稲葉監督も場合によっては敗戦も受け入れながら優勝を目指すと公言していたが、結果的に無敗を貫き、初のオリンピック制覇を飾っている。この勝ち試合を重ねてきたことも、戦略としては良かったと多村氏は語る。

「敗者復活も含めたトーナメントでしたが、オープニングラウンドで1位通過したのも大きかった。その後のKOステージでも負けてしまうと次の試合がデーゲームになったり、連戦になったり日程的に厳しい状況になります。日本はしっかりと勝ちつづけることで連戦を回避し、トーナメントの3試合すべてをナイトゲームで戦うことができたのもプラスに働いたと思います。選手たちの体力的な部分もしかり、スケジュールが読みやすくなり選手起用も計画が立てやすかったと思います」

8回の坂本のバント、山田の走塁…“集大成”稲葉監督の作り上げたもの

 全体を通じ小さな誤算やミスは散見したものの、個人の力だけではなくチーム力でカバーし勝ち上がっていった印象のある侍ジャパン。稲葉監督の手腕もさることながら、日本の野球の特性が全面に発揮された。

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「稲葉監督が掲げていたスピード&パワーを見せることができたのではないでしょうか。長打力はもちろんのこと、盗塁や送りバント、セーフティスクイズなど機動力や右打ちの徹底など“動く野球”“繋ぐ野球”で勝負できました。

8回裏、ノーアウトで出たランナーを確実に送った坂本のバント ©JMPA
送球が逸れた隙を見逃さずにホームに生還した山田哲人は、大会MVPにも輝いた ©JMPA

 決勝戦の8回裏、坂本勇人選手のバントや山田哲人選手の積極的な走塁による得点は、まさに真骨頂だったと思います。走攻守そろった選手たちがしっかりと期待に応えてくれました」

 スピード&パワーと緻密さ――決してスモール・ベースボールではない、日本らしい野球スタイルがこのオリンピックでは花開いたのかもしれない。

「稲葉監督にとっては集大成だったでしょうし、本当にいいチームを作り上げたと思います。優勝に値するチームであり、心から祝福したいですね。またオリンピックを通じ、そして金メダルを獲ったということで、野球をやりたいという子どもも増えたでしょうし、野球少年少女たちのモチベーションも上がったことでしょう。子どもたちばかりではなく全世代にいい影響を与えることができました。そう考えると、日本の野球界にとって非常に意義のあるオリンピックだったと思います」

正式競技では初の金メダルを獲得した野球日本代表

 多村氏はそう言うと納得の表情を見せてくれた。果たして、このオリンピックの「初」金メダルを日本の野球界は未来へどのようにして継承し発展させていくのか、これからも注目していきたい。