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「正直、しびれました」明暗を分けた“4球目”、見逃さなかった失投…野球日本代表が金メダルをたぐり寄せた「3回の攻防」――東京五輪の光と影

第1回WBC優勝戦士・多村仁志氏インタビュー

2021/08/19

 3回表、2アウト、ランナー一塁の状況で迎えたのは打率4割超と今大会大当たりしていたDeNA所属のタイラー・オースティンだ。

「4球目に投じたチェンジアップを捉えられ、レフトのポール際へのファウルになりました。危なかったですね。もしあれがスタンドインしていたら、その後の試合の主導権を握られていた可能性があります。結局最後は、オースティン選手からあのイニング3つ目になる三振を奪い、流れを作ることができました」

序盤のピンチを乗り越え、5回を無失点で切り抜けた好投がチームに流れを呼んだ ©JMPA

「あらゆる意味で大きい一発だった」21歳の一振り

 裏のイニングでは村上宗隆が先制のホームランを放っている。

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失投を見逃さず仕留めた村上宗隆の先制ホームラン ©JMPA

「あらゆる意味で大きい一発だったと思います。追い込まれた状況で内野手に右側へ守備シフトを敷かれましたが、浮いた失投を見逃すことなく振り抜きました。しかも逆方向ですからね。シーズンと変わらずの打撃。素晴らしい打撃でした」

 流れを渡さず、わずかなチャンスを活かすことが国際試合ではとくに重要だということだ。

気を抜いたら一気に飲み込まれる国際試合…チームの流れはどこで変わったのか

好投の森下をリリーフした千賀 ©JMPA

 また、多村氏いわく、国際試合の妙を感じられたのが千賀滉大の登板だという。森下のあとを受け、6回にマウンドに立った千賀だったが制球に苦しみ、2アウト、ランナー2塁1塁のピンチを迎えてしまう。普段ソフトバンクでバッテリー組んでいる同期入団のキャッチャー甲斐拓也との呼吸がいまいち合わない。

ソフトバンクで普段からバッテリーを組む千賀と甲斐だが、サインがあわず2人ともが首を振る場面もあった6回 ©JMPA

「フルカウントになったところで、サインが合わない状況が見受けられました。どうかなと思いましたが、最後は甲斐選手のサインにうなずき千賀投手が気持ちを込め投げ込んだ1球がキャッチャーフライになりました。甲斐選手がそのフライを大事に大事にキャッチする姿はすごく印象的でしたね。これが国際大会というか、点差関係なく、とにかく一球一球が大事になってくるんですよ」

キャッチャーフライでピンチを切り抜け、大事に捕球しようとする甲斐拓也 ©JMPA
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 一球一球が大事だということは、つまりすべての局面が重要だといっても過言ではない。気を抜いたら飲み込まれるのが、国際試合でありオリンピックである。

ドミニカ共和国戦の最終回、逆転サヨナラ打を記録した坂本勇人 ©JMPA

「ですから今大会、オープニング・ラウンドの初戦となったドミニカ共和国戦を取れたのは大きかったと思うんです。しかも最終回に3点を取っての逆転サヨナラ勝ち。劣勢のなか難しい試合でしたが、選手たちが繋ぎ、力を発揮し勝てたことでチームに勢いをつけることができました。僕個人としても、あの勝利でこのオリンピック行けるのではないかなと思いました」