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自責、悔悟の念、鬼気迫る声…東北地方のとある寺で行われ続ける「除霊」の儀式に密着する

『死者の告白 30人に憑依された女性の記録』より #2

2021/08/24

広島県の呉軍港にいた帝国海軍の軍人

「あなたはどこにいたんですか?」

「水島はどうなったんですか?」

 金田住職は、繰り返し、繰り返し根気よく尋ねる。

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 やがて男は、頑なに閉ざしていた心を開くように、ぽつりぽつりと語り始めた。しかし話がバラバラでなかなか全貌が摑めない。

 どうも水島というのは、憑依した男の霊と同じ帝国海軍の軍人として広島県の呉軍港にいたようだ。終戦の間際、男らが乗っていた軍艦が米軍の爆撃を受けた。彼らがどの艦に乗船していたかはわからない。ただその爆撃で、憑依した男は爆風を受けて海に投げ出された。足を吹き飛ばされたのだろうか。水の中で必死にもがいていると、水島という軍人に助けられたようである。ところがその直後、さらなる爆撃で水島も下半身を吹き飛ばされて戦死した。男もその爆撃で死んだのか、あるいは助かって戦後を生きたのかは不明である。ただ男の霊は、自分のせいで戦友の水島を死なせたと思い込んでいた。

「俺のせいで水島を死なせてしまった。俺のために……、俺のせいで……」

 自責と悔悟の念から、鬼気迫る声が訴える。

©️iStock.com

 金田住職によれば、これだけのことを聞き出すのに3時間かかったという。かといって、ただ3時間、憑依した男が話すことを聞いていたのではない。聞きながら、問いかけをしつつ、かたちのない言葉を物語にしていったのだという。

死者との対話は即興劇のよう

「最初から最後まで傾聴しても物語にはなりません。聞きながら、これはどうなんだと問うていけば、(霊が憑依した)彼女が訥々としゃべります。彼女の声を聞きつつ、少しだけ手助けしながら、物語にしていくのです。物語としては死者との対話といえますが、本当にそれが死者との対話かどうかはわかりません。ただ、ひとつの物語にすることで整理がついてくるのです」

 結果的に、死者との対話は即興劇のようになる。

 この即興劇が成り立つために、金田住職が自分に課したことがあった。それは、霊魂や「あの世」の存在については問題にしないこと。その経験がその人にとってどのような意味を持つかを問題にすること。そして、徹底した傾聴と、彼女が精神病を疑っていたから、それを否定したうえで、彼女との信頼関係を構築することだ。

 おそらく、アメリカ精神医学会が作成したDSM(現在はDSM5。精神障害の診断・統計マニュアル)で高村さんを診断すれば何らかの診断名がつくだろう。医師はそれで安心するだろうが、高村さんはどうなのか。精神病にされただけで、何の解決にもならない。金田住職が心配したのもそのことだった。

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