30人の死者に憑依され、自身の体がコントロールできなくなる……。にわかには信じられない体験をした女性・高村さんは、宮城県通大寺の金田住職に助けを求めて“除霊”を受けた。

 彼女の憑依体験から除霊の儀式まで、一部始終をまとめた書籍がジャーナリストの奥野修司氏による『死者の告白 30人に憑依された女性の記録』(講談社)だ。ここでは同書の一部を抜粋。高村さんに憑依した海軍軍人を除霊するさまを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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海軍軍人の叫び

 高村さんは苦しそうに悶えながら、「わたしの中へ入ろうとしているの、どうも軍人さんみたい。苦しい……、もう駄目」と、途切れ途切れに言葉を絞り出した。かと思えば突然、「うう~、ワタクシは……」と、軍人のような言葉遣いに変わった。

 そんな高村さんを前に、金田住職はやさしく言った。

「安心して(体に)入れてあげなさい」

 すると高村さんは、「わぁ!」と声を上げると虚脱状態になった。

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 突然、男の声に変わると、「水島ぁ~」と叫び始めた。若い男なのか年配なのか、どちらとも言えない不思議な声だった。

「あなたは誰ですか? どうしたいんですか?」

 金田住職が声の主に尋ねる。しかし、男は答えない。「うっうっう」と、うめくような声が響いて言葉が出てこなかった。「私がちゃんと聞くから安心しなさい」と言っても、聞いているのか聞いていないのか、沈黙が続いた。そこへ突然、「水島ぁぁぁ~!」と引き裂くような声が部屋に充満した。

「水島って、いったい誰なんですか?」

 あくまでも冷静に訊いた。しかし、男はそれに答えるわけでもなく、懺悔するかのように訥々と語った。

「俺のために、貴様を死なせてしまった。すまん、水島! 俺のせいだ、許してくれぇ~」

 その声は慟哭となって響く。

「あなたはどこにいるんですか?」と尋ねると、「海……」と言った。

 水島は彼の戦友のようだった。戦争で友を死なせてしまった後悔を、男は何度も何度も繰り返した。口ぶりから旧帝国海軍の水兵らしい。しかし、いくら声をかけても、男は聞こうとはせず、狂乱したように叫び続けた。もちろん、実際に叫んでいるのは高村さんである。若い女性のどこからこんな野太い声が出るのかと思うほど、男性そのものの声だった。