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自責、悔悟の念、鬼気迫る声…東北地方のとある寺で行われ続ける「除霊」の儀式に密着する

『死者の告白 30人に憑依された女性の記録』より #2

2021/08/24

どうやって死者を納得させるか

 自分のせいで戦友を死なせてしまったと思い込んでいる男を、では、どう説得すればいいのだろうか。金田住職は困り果てた。死者との対話にマニュアルはない。自分を責める男の霊としばらくやり取りする中で咄嗟にひらめいた。

「そうではないだろう。あなたが悪いんじゃない。これは戦争というものの大きな罪なんだ。戦争が悲劇をもたらしたんだ。だけど、大丈夫だ。我々の代で絶対に戦争を起こさないようにするから、安心して成仏してほしい。二度と過ちを犯すことはしない。向こうの世界から我々をちゃんと見守ってくれ」

 苦し紛れだったが、男は意外にも納得したようだった。

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 男はようやく落ち着いた。

 金田住職が「これから光の世界へ導くお経を読むから供養を受けますか」と訊くと、男は「わかった」と返した。そう言ったが、まだ未練はあったのだろう。重い足取りだったが、高村さんは家族に抱えられながら本堂に向かった。

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 普く、十方、窮尽虚空、周遍法界、微塵刹中、所有国土の一切の餓鬼に施す、先亡久遠、山川地主、乃至曠野の諸鬼神等、請う来って此に集まれ、我今悲愍して、普く汝に食を施す……願くは速に成仏して……

 金田住職は太鼓を叩き、「甘露門」というお経を読んだ。そして最後に洒水をかけると、ぐったりしていた高村さんの顔にようやく赤みがさしてきた。

 軍人の霊が語ったように、実際に終戦前の昭和20年7月に呉軍港はたびたび米軍の爆撃を受けている。この爆撃で、戦艦日向や戦艦榛名、空母天城など多数の艦が失われた。このとき戦死した中に水島という軍人がいたのではないか。そう思って金田住職に「調べてみましょうか」と尋ねると、「いや、それはやめましょう。これはあくまで高村さんの物語です。現実の世界と一緒にするときりがなくなります」と語った。

 ちなみに、金田住職は、「除霊」に使った宗教儀礼についてこう記している。

 今回行った宗教儀礼は、女性の宗教的風土的背景を考慮し、曹洞宗寺院で一般におこなわれている施食会(施餓鬼会)を基本におこなった。施食会は、お盆の時期におこなわれる先祖供養の儀式である。曹洞宗の一般寺院においては普通におこなわれている。各家々の先祖、ならびに自然災害、戦争の犠牲者、その他いわゆる「浮かばれない諸霊」を供養する。その中心をなす経文が「甘露門」である

(金田諦應『東日本大震災──3・11 生と死のはざまで』春秋社、2021年)