北九州で書店員をしているかぁなっき氏。彼は仕事のかたわら、2016年の夏からライブ配信サービスTwitCastingで怪談チャンネル「禍話」を配信し続けてきた。大学時代の後輩である加藤よしき氏とともに結成した猟奇ユニット、“FEAR飯”の語り手担当として繰り出されるその恐怖話の数々は、歴戦のホラー好きを唸らせている。その評判はとどまるところを知らず、2021年7月にはABCテレビで実写ドラマ化も果たした。
今回は、そんな「禍話」のなかからリスナーを恐怖の底に突き落とした話「嫁入りの山」をお送りする。“とある山”に関わってしまった者たちに訪れた不可解極まる怪異の記録とは――。
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四国地方にある不思議な現象「狐の嫁入り」
その山にまつわる一連の出来事を調べたのはかぁなっき氏の友人だった。氏はその調査結果を目にする機会があり、そのときにこの話を知った。
四国地方にある“その山”は「嫁入り」があることで知られていた。
「嫁入り」とは、結婚式の主役である新郎新婦を中心に、参列者たちが長い行列となって神事を執り行う神殿まで歩いていく儀式だが、この言葉は違う出来事を指すこともある。
それは「狐の嫁入り」という怪異だ。
暗闇に不気味な怪火がいくつも揺らめき、まるで嫁入り儀式のように見えたという不可思議な現象の存在は、本州や四国・九州地方に古くから伝わってきた。まるで狐に化かされているようだということから、いつしかそう呼ばれるようになっていったという「狐の嫁入り」。
だが、その山で起こるのは“狐”の嫁入りではないという。実のところ、この嫁入りについての記録はほとんど残されていないそうだ。伝承の多くが口承のうえ、肝心な“何の”嫁入りなのかに関しても、土着の猟師たちが使う強い訛りの方言や符丁の影響で、今となっては正確に把握している者はいないのだという。
そのため、その山では「嫁入りがある」とだけ語られてきたそうだ。では、その「嫁入り」はどんな出来事を引き起こすのだろうか。
それは、広く語られてきた「狐の嫁入り」とはかけ離れたものだった。