日本は至るところに山神信仰がある山国であり、そして怪体験をする人たちがいる。
熊猟を生業とした伝説の集団「マタギ」をはじめとして、各地の猟師などに怪体験を聞いた実話集シリーズ『山怪 山人が語る不思議な話』(田中康弘著、山と溪谷社)は、累計25万部を超えた。
これを原作として、独特の墨絵で描いた漫画『山怪 参 死者の微笑み』(原作・田中康弘、漫画・五十嵐晃、リイド社)にも、怪体験が綴られる。
突然、笑い声が聞こえたり、叫び声が聞こえたり...
山形県の羽黒山・湯殿山・月山は総称して「出羽三山」と呼ばれ、古くから信仰を集める修験の場となり、日本遺産に認定された。猟師にとっては大切な猟場でもあった。
マタギ発祥の地である秋田県の阿仁町(現・北秋田市)では、「揚げ物を山に持ち込んではいけない」と言われてきた。逆に出羽三山では、山の中でキツネに化かされないように、稲荷大明神の眷属(けんぞく=従者)であるキツネに油揚げをお供えし、手を合わせる。
山奥の猟場では、時々人の話し声が聞こえる。突然、笑い声が聞こえたり、叫び声が聞こえたり、誰かの名を呼ぶ声がする。しかし人の姿は見えない。
昔から「キツネに鉄砲を向けるな」と言われてきた。仕留めたキツネを引きずって持ち帰ったところ、道中の家がすべて火事で燃えたこともある。
六十里越街道の宿場として栄えた田麦俣(たむぎまた)地区では、ある晩、街道沿いに明かりの列がずらりと並んだ。1人、2人と、集落の人たちがそれを眺めるために外に出たが、明かりの列が近付いてくる気配はなかった。おかしいと思い、家に戻ると、食卓の上の食べ物がほぼなくなっていた。(「出羽三山」より)
田麦俣地区は雪深く、内部が4層になった多層民家で知られている。ここに住む鷹匠の周りでも、不思議な体験がいくつも起こっている。