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ツチノコが飛び跳ねる姿を見た人が何人も

 次の話は近年の出来事であるため、名前も場所も伏せられている。

 秋が深まった東北地方で、2人の男性がキノコ狩りに出かけた。早朝に山に着き、林道に車を停め、沢を渡った。日帰りの予定だったが、2人は戻らなかった。家族の連絡により、地元警察と猟師が翌日1日かけて捜索した。車はすぐに見つかったが、2人を捜し出すことはできなかった。以降、人数を増やして捜索したがダメだった。やがて雪が積もり、捜索は不可能になった。それから数年過ぎたが2人は消えたままだ。

 捜索に加わった猟師は不思議がる。遭難して亡くなり、雪に埋もれれば、春先に下流まで流される可能性はあるが、靴やビニール製のカゴは腐らずに残る。すべて流されることは考えにくい。まして2人もいたのだ。しかし何の痕跡も見つかっていない。(「帰らない人」より)

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 新潟県の入広瀬村(現・魚沼市)は、阿仁マタギの狩猟文化が残る地である。

 ある民宿では、客に供するイワナを飼う池があった。ある時、お婆さんが池の周りでツチノコを見た。丸々として、ビール瓶に尻尾が生えた感じだったという。お婆さんの叫び声を聞いて息子が外に出た時には、ツチノコは側溝に逃げ込んで見えなくなっていた。

山怪 参 死者の微笑み」(リイド社)より

 周辺では、ツチノコが飛び跳ねる姿を見た人が何人もいる。ツチノコは地元で「土マムシ」と呼ばれている。

 ヘビが獲物を丸呑みした姿である、とその存在を否定する人もいる。しかし獲物を丸呑みしたヘビが飛び跳ねたり、俊敏に逃げたりできるだろうか……。(「ツチノコは跳びはねる」より)

ヘビを殺して祟られ、ヘビのように這うようになってしまった

 長野県の川上村は、群馬・埼玉・山梨と境を接している高所にあり、冬は零下20度を下回る。

 山中には「よばり沢」と呼ばれる場所がある。迷い込むと、右へ曲がらなければいけないのに左へ行ってしまったり、遠くで自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。

山怪 参 死者の微笑み」(リイド社)より

 この山岳地帯では、ニホンオオカミが今も生息していると信じる人たちがいる。

(ニホンオオカミは1905年に奈良県で捕獲されたのを最後に絶滅したとされる)

 ここではニホンオオカミを「山犬様」と呼び、そのお産が近いと山へ入って赤飯を供えたり、山犬様の子供が欲しくて、雌犬を山中にしばらく繋いでいるという。

 秩父の三峯神社には、ニホンオオカミの毛皮が保存されている。(「山から出られない」より)

 墨絵を描いた画家の五十嵐晃氏は、出羽三山が連なる山形県鶴岡市出身だ。

「昔、近所のおじさんがヘビを殺して祟られ、ヘビのように這うようになってしまい、出羽三山の行者を呼んでお祓いしてもらったことを覚えています。

 私は子供の頃、アメを喉に詰まらせて意識が遠のいた時、見上げるほど大きくて、金色に輝く観音様が出てきました。『帰りなさい』と言われ、金色の木馬に乗って帰り、助かったのです。

 怪現象は、皆に見えるわけでも、皆が同じ体験をするわけでもありませんが、誰にでも、いつか目の前に現れる可能性があると思います」

山怪 参 死者の微笑み (ボーダーコミックス)

五十嵐 晃 ,田中 康弘

リイド社

2021年2月19日 発売