「これから幸せになります」と書かれた便箋を残して
完成した式場の最初の客は、運営会社社長の息子夫婦だった。
都会から四国地方まで下見にやって来た息子夫婦は、まさに幸せの絶頂といった様子で、山頂からの眺めや豪華な式場に感動していたという。夫婦は数週間後の式当日に向けて、社長らとともに楽しそうに式の段取りを細かく詰め、準備は滞りなく整ったそうだ。
後は式を挙げるだけとなった夫婦は、せっかくなので都会に戻る前に四国地方を観光してから帰りたいと、式場所有の可愛らしい軽自動車を借りて山を降りていった。
息子夫婦を送り出した運営会社社長の胸には、自慢の式場で自慢の息子が式を挙げることが、新たなビジネスの華々しい出港式になる、そんな万感の思いが去来したことだろう。
だが、息子夫婦がそこで式を挙げることはなかった。
2人は車で山を降りて以後行方不明となり、数日後に警察が閑散とした道路の脇に止まった軽自動車を発見。だが車中にひと気はなかった。
そして、軽自動車の周りには結婚式で配られるような便箋が散らばっており、その一つにはこう書かれていた。
「これから幸せになります」
警察が付近の森の中を捜索していると、妙にひらけた場所で息子夫婦が向き合う形で、互いに首を絞めあって死んでいるのが見つかった。
2人は自殺と判断されたが、そのあまりに不可解な事件は近隣住民の間で噂となった。運営会社社長はこの突然の不幸に精神のバランスを崩してしまい、会社自体もその後倒産してしまったそうだ。
しばらくの間は後任の運営会社が模索された向きもあったようだが、結局はそんな奇妙な死亡事件が起こった式場運営に名乗り出るところはおらず、プロジェクトは白紙に。取り壊すにも費用がかかると、山には無人の式場だけが残されたという。
廃墟と化したその式場で
そして、時は平成に移り変わる。
今や不気味な廃墟と化したその山上にある式場で、大学生2人組の死体が見つかる事件が発生した。式場の上階にあるガラス張りの披露宴会場で、首を吊って動かなくなっていたのだという。
2人は男女の恋人同士だった。
ここまでであれば、割とよくある心中自殺だろう。だが、この事件を当時調べていた記者が警察関係者から聞き出した詳細は不可解なものだった。