宮城県の古刹・通大寺では、人間に「憑依」した死者を成仏させる「除霊」の儀式が、今もひっそりと行われている……。その現場でジャーナリストの奥野修司氏が目にしたのは驚きの光景の連続だった。

 ここでは同氏が、“30人の死者に憑かれた女性”の除霊を行う通大寺・金田住職を追った著書『死者の告白 30人に憑依された女性の記録』(講談社)の一部を抜粋。「除霊」の実情を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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「わたしはもう駄目……」

 人が死ぬとき、合理的に解釈できない不思議なことがしばしば起こる。

 がんなどで死に逝く場合もそうだが、2万2000人余という人が亡くなった東日本大震災のような過酷な状況下では尚更だろう。しかし、いきなり霊的ともいえる予想外のことが起こると、それを体験した人は誰にも相談できずにひどく苦しむ。

 金田住職のところへ、高村英さんが混乱状態で電話してきたのは2012年の蒸し暑い6月の夜だったが、彼女もやはり誰にも相談できずに苦しんでいた。

©️iStock.com

 この日、金田住職は、石巻市の仮設住宅で「カフェ・デ・モンク(編集部注:被災者の話を傾聴する移動喫茶)」を終えて帰ったばかりで、へとへとに疲れていた。

 受けた電話口から苦しそうな声が聞こえてくる。

「たくさんの人が入って来る。わたしはもう駄目……、殺される」

 女性はネットで調べたと言ったが、金田住職はこれまで表立って「除霊」の儀式をしたことはなく、「除霊」で検索してもヒットするはずがない。不思議だった。

 金田住職は疲れていたから、電話口で「明日でもいいですか?」と尋ねた。

 すると、「なんで今は駄目なんですか?」と怒鳴るような声が聞こえてきた。

「わたし、もう死にたいんです!」

「え!」

「うぉ~、うぉ~」という獣のようなすごい声

「たくさんの亡くなった人が体に入ってくる。コントロールが利かなくなった。わたしはもう駄目。自殺したい!」

 震災前まで、金田住職は自殺の電話相談を受けていたほどだから、「自殺」という言葉を聞き流すことはできなかったのだろう。すぐに反応した。

「わかった、今からでもいいから来なさい」

 2時間ほど経って、1台の車が滑り込むように通大寺にやってきた。乗っていたのは母親と妹と友人、それに数珠を持って全身を震わせている高村英さんだった。

 家族に引きずられるようにして玄関をくぐると、金田住職があらわれるのを待った。

「何かに憑かれているようで、『うぉ~、うぉ~』って、獣のような声ですごいんです。なんだ? と思いました。顔も紅潮しているし、異常な状況でした」と金田住職は言う。

 一緒に来た母親はオロオロするばかりだった。