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不思議なジュンヤ少年との対話

 ところが、その数日後に高村さんが再びやって来たのだ。

 この日は苦しそうな表情ではなかった。ヤクザのように暴れたりしなかったせいかもしれない。最初にあらわれたのは、福島県から仙台に出てきて自殺した女性で、彼女の「悲しい身の上話」を聞いてあげると納得したらしく、高村さんの体から出て行った。やれやれと思ったら、「実はね」と高村さんが切り出したのだ。

「え?」

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「わたしの中に高校生の男の子がいるんです。そんなに邪魔な子ではないんだけども、わたしの中が居心地いいみたい。悪さをするわけでもないから……」

 高村さんに憑依している霊の中に「ジュンヤ」という、ちょっと不思議な少年がいると、高村さんは金田住職に語った。

「そうか、わかった」

「(ジュンヤを)入れるので話を聞いてあげてください」

 高村さんがそう言うと、いきなり高校生の男の子の声に変わった。

「ぼくの両親は今でもぼくのことを思ってくれているし、供養もちゃんとしてくれてるよ。だけど、彼女の中にいるのは居心地がいいんだ」

 ジュンヤは、彼女の中へ物見遊山にでも来たかのように言った。

白い裃をつけた武士と甲冑をまとった紫色の武士

 多くの霊は自分が死んだこともわからずにさ迷っているが、ジュンヤ少年は違った。テニス部の朝練に行く途中で、交差点を渡る時に交通事故に遭って死んだことを理解していたし、自分が高村さんに憑依していることも知っていた。それでいて、決して他の霊とは絡まず、ふいにあらわれて消えるだけだった。

 ジュンヤ少年は「もう、そろそろ出てもいいかな」と飄々とした声で言った。

「でもね、和尚さん、この子(高村さん)の深いところにはね……、ヤバイよ」

「何が? どうしたの?」

「心の深いところに、白い裃をつけた武士と、もっと深いところには甲冑をまとった紫色の武士がいるんだ。ぼく、関わるのは嫌だからそっとしてるんだ」

©️iStock.com

 白い裃といえば切腹だろうか。

 紫色という表現に何か恨みを残した怨霊のようなものを、金田住職は感じた。だからといって、この2人の武士が何かをしたというわけではなく、ただいるというだけでは金田住職にもどうすることもできなかった。

「どういう人なのかな?」と訊くこともできたが、憑依しているというより、彼女の深層心理につながっているようにも思えて安易には踏み込めなかった。

「ぼくにはそこまで彼女に干渉することはできないんだ。それに怖いんだ。だからね、ぼくもそろそろこの子から出て行こうと思う」

 それほど強い憑依ではなかったが、自分から出ていくと言うのは初めてだった。