家系には同じ感性を持つ人が
「いっぱい人がわたしの中に入って来て、もう死にそうです」
高村さんは息も絶え絶えに言った。
本堂の横にある応接間にとりあえず落ち着くと、金田住職は家族から、高村さんの生い立ちや家族構成、これまでのいきさつを詳しく聞いた。母親に家系図を書いてもらって一人ひとりについて尋ねていったところ、高村さんと同じ感性を持つ人がいたという。「このあたりで出羽三山といえば修験の山ですが、彼女のご先祖もそういうところで修行したのかもしれませんね」と金田住職は言った。
震災当時、高村さんは仙台市街にいたから津波の被害は受けていない。被災地に行くと霊が憑いてきそうな気がしたから近づかなかったという。ところが、震災から1年ほどして目に見えない死者の霊に悩まされるようになった。
小さな女の子とヤクザのような男
高村さんは、霊が体の中に入ろうとするのをなんとか防いでいたが、とうとう防ぎきれなくなり、どんどん入ってくるようになって看護師の仕事も続けられなくなった──。そんな話をしている間も、憑依した霊が入れ替わり立ち替わりあらわれる。いや、見た目には、あらわれるというより、高村さんの人格が次々と変わるのだ。
最初、小さな女の子とヤクザのような男があらわれたと住職は言う。
「何か悪さをして、コンクリート詰めにされて暗い海の底に沈められたというヤクザでした。いきなり『おう、お前、誰や』なんて言うものですから、こっちもびっくりしました。『お前は誰なんだ』と言ったら、『お前こそ誰じゃ!』とヤクザの声ですからね。『あんたもいろいろ大変だな。でもね、あんたが入ってるためにこの子は苦しんでるんだ。ここから出てやれよ。死んだ人が行く場所はあるから、そこへ送ってやる。この子の中にいたら、あんたも苦しいだろ?』みたいな対応をすると、『お前にそんなことできるのか』と言うんです。『坊主を甘く見るなよ』と言って本堂に連れて行ったのですが、これが暴れるので大変でした」
この時はヤクザと一緒に小さな女の子も「死者の世界」に導いたという。