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夏に読みたい「怖い話」

「あの子、それから蝉しか食べなくなっちゃって…」 “蝉の鳴かない山”に足を踏み入れた男が過ごした“恐怖の一夜”

「蝉の鳴かない山」#2

2021/08/10

 北九州に住む書店員でありながら、これまでに培ったその膨大なホラー知識と実話怪談のストックで今、ネットの注目を集めているかぁなっき氏。彼は映画ライターの加藤よしき氏と組んだ猟奇ユニット“FEAR飯”の語り手担当として、2016年からライブ配信サービスTwitCastingで、「禍話」という名の生配信怪談放送を続けてきた。

 その身も凍る怪談話の数々とかぁなっき氏の軽妙な語りが受け、今やABCテレビにて実写ドラマ化までされるなど、破竹の勢いを見せている「禍話」。今回はそんなツイキャスのアーカイブから、人気作「蝉の鳴かない山」(後編)をお届けする。不気味な噂の残る廃墟に足を踏み入れてしまった若者に降りかかった恐怖体験とは……。(全2回の2回目/#1より続く

◆◆◆

不吉な想像を呼び起こすような不穏な気配

 致命的な内臓疾患でも患ったのか……?

 数ヶ月ぶりに会ったTさんの姿は、そんな不吉な想像を容易に呼び起こすような不穏な気配をまとっていた。

「おお、元気そうだね」

「まあ、そっちはなんか、元気なさそうだけど」

「……なんか頼みなよ。俺頼んでないから座り悪くて」

「ん、ああ」上着を脱ぎながらTさんの向かいに腰掛けたYさんは、彼の言葉通りテーブルには無料の水しかないことに気がついた。だが、なんとなくそのことに触れられず、何事もないふりをしながらコーヒーを注文したそうだ。

©iStock.com

 一体なにから話せばいいのか。明らかに数ヶ月前と違う友人の姿を前にすると、他愛もない話題を振るのすらためらわれる……Yさんがそう思っているとTさんが先に口を開いた。

「お前は入らなくて本当によかったよ、あの家。俺、仕事も辞めちゃったし、まだ実家でずっとお祓いだもん」

「え?」

 脳裏に漂っていた数ヶ月前の山の景色がどんどん鮮明になっていく。YさんはTさんの言葉を聞いて血の気が引いていくのを感じたそうだ。

「死んだよ、N」

 Tさんは会話が途切れても、ボーッとYさんの首元辺りを焦点が合わない様子で眺めている。そのうち、注文のコーヒーが運ばれてきたのをきっかけに、Yさんは少し話を変えてみた。

「Nは今なにやってんだろうね。最近全然連絡取ってないからさ」

「死んだよ、N」

「は?」

「死んだ」

「なんで、え?」

「なんでって……お祓いが間に合わなかったんだろうね」

 一点を見つめていたTさんが目線をそらす。