11月3日は、戦後初めて政府が自衛隊の防衛出動を決定した日として記憶される。発端は、その日の午前8時30分頃、東京湾アクアラインが崩落した事故だった。このあと9時47分には、東京湾の浮島沖で巨大不明生物の尻尾らしきものが確認される。巨大生物はやがて多摩川に進入し、呑川を遡上すると11時32分、蒲田駅付近(東京都大田区)に上陸。大田区と品川区に甚大な被害が出るなか、ついに午後1時2分、大河内首相(当時)が自衛隊に防衛出動を命じる。のちにゴジラと名づけられる巨大生物と日本の壮絶な戦いは、このとき火ぶたが切られたのである。
……というわけで、きょうは昨年公開された映画『シン・ゴジラ』(庵野秀明総監督、樋口真嗣監督)におけるゴジラ初上陸の日である。11月3日という設定になったのは、『ゴジラ』の第1作(本多猪四郎監督)が封切られたのが、1954(昭和29)年のこの日だったからだろう。
映画のなかでは、政府が未曽有の危機に対処するさまが、きわめてリアルに描かれている。それは政治家や官僚、自衛隊などの関係者への綿密な取材をもとにしていた。東日本大震災と福島第一原発事故の発生時、内閣官房長官として対応した枝野幸男(現・立憲民主党代表)も取材を受けた一人だ。取材に際して枝野は「良いものをつくるために、話していい部分についてはしっかりと話そうと思って対応した」といい、できあがった映画を観て、「危機対応時の動き方などがリアルに描かれていました。(中略)リアルな演出がしっかりと作り込まれているだけに、虚構の部分ですらリアルに感じる。すっと話に入り込めました」と評している(日経ビジネス編『「シン・ゴジラ」、私はこう読む』日経BP社)。
そうしたリアルな描写から、『シン・ゴジラ』は現実の政治とからめて論じられることも多かった。一方で熱烈なファンも生み、蒲田に上陸した生物を「蒲田くん」と呼んで愛でたり、製作元の東宝が好評を受けて開催した「発声可能上映会」では、巨災対(巨大不明生物特設災害対策本部)の面々の奮闘に声援を送ったりと、さまざまな反響が見られた。今月12日(日)にはテレビ朝日系での放映が予定されているが、このときもきっとSNSなどでは熱い反応が見られることだろう。
ちなみに『シン・ゴジラ』におけるゴジラ初上陸の日が「11月3日(木)」であることは、画面中でも確認できるものの、その年代までは断定できない(野村宏平・冬門稔弐『ゴジラ365日』洋泉社)。11月3日が木曜日なのは、公開年の2016年と同じだが、じつは劇中の東京駅周辺の超高層ビルのなかには2027年竣工予定の建物が存在していたりする。ゴジラとの戦いは近未来のできごととも解釈できるのではないだろうか。