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なぜ“情報は21世紀の石油”なのか? 桜井俊・元次官が語る「ICT×地方創生」

情報通信技術政策のプロが考える日本の未来

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「情報は21世紀の石油」とはどういうことなのか?

――情報は21世紀の石油。

桜井 面白いデータがあるんです。日経が2007年と2017年の世界の企業の時価総額を比較したランキングなんですが、07年はエクソンモービルが1位(4685億ドル)、2位はGE(3866億ドル)。3位以下、マイクロソフト、シティグループ、ペトロチャイナと続く。ところが、17年になると1位はアップル(7964億ドル)、2位はグーグル(6751億ドル)、3位以下マイクロソフト、アマゾン、フェイスブック。

――たとえではなく、本当に情報産業が石油産業を抜いているんですね。

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桜井 額自体も大きく違いますしね。まさに、ビッグデータを制するものが、グローバルマーケットを席巻しているわけです。ただ、先ほど申し上げたように、ICT×〇〇。この〇〇の部分が、地方創生のカギにもなってくるはずです。

©iStock.com

――日本ではどういう取り組みが芽を出し始めているんでしょうか。

桜井 医療分野では大病院と地域診療所を結ぶ情報ネットワークが整備されつつありますし、農業分野でも面白い取り組みがされていますね。一例を紹介すると、長野県塩尻市のイノシシ駆除とICTの組み合わせ。センサーネットワークを活用して田んぼの獣害面積が2年間で85%からゼロになったそうです。これで稲作収入は約7倍期待できるのだとか。

ICTって何だ? 様子見の自治体が多いのでは?

――ICTの利活用については、それぞれの自治体によって積極性にバラつきがありませんか? なんだかよく分からないから、様子見しとこう……のような。

桜井 それはありますね。2014年の資料になりますが、総務省が地方公共団体にお願いしたアンケートがあるんですよ。そこで「ICTを利用した街づくりに関心はあるが、特段の取り組みは行っていない=63.2%」という数字があります。理由は色々あるんですが、「人材的に厳しい」という声が割合多い。しかし、その気になれば地方にはベンダー、供給業者もいますし、各地の大学でもさまざまな取り組みが始まっていますから、探せばいるはずなんです。自治体の中に熱心に取り組む方がいれば進むべきところに進んでいくと思います。

 

――一方で「なんだかよく分からない」と思う住民への理解を促すためには、どうすればよいのでしょう。

桜井 成功例を実感してもらうことに尽きるのではないでしょうか。ICTの成果は、こんな素晴らしい公民館を作りましたとか、橋を作りましたといった目に見えるものとは違います。「なるほど、こういう役に立っているのか」と生活レベルで実感していただくことが重要でしょうね。先ほど例を挙げたイノシシの駆除、あれは元々、子どもの見守りサービスを応用したシステムなんですよ。住民の理解があって、さらにシステムが応用発展したいい例なんだと思います。

マイナンバー×母子健康手帳×スマホのプッシュ通知

――地方創生にICTを利活用するために、法律も整備されつつあるんでしょうか。

桜井 今年の5月に改正個人情報保護法が施行されました。これには、個人情報を経済成長や豊かな暮らしの実現のために適切に利用することが、目的として入っているんです。また、官民データ活用推進基本法という、国や自治体が持っているデータと、民間が持っているデータを組み合わせて便利で豊かな社会を作っていきましょう、という法律もできました。データの価値というものを、あらかじめ含んだ法整備が進んでいます。

――個人情報という意味では、マイナンバーなどの情報がICTに使われている例も多々あるのでは。

桜井 ええ、例えば私の出身の前橋市では「母子健康情報サービス」というものを実施しています。母子健康手帳に載っているデータをクラウドに乗せ、マイナンバーで特定できるよう紐づけして、スマホへのプッシュ通知で「来月はお子さんの予防接種ですよ」と教えてくれたり、成長記録をアップできたりする住民サービスです。これによって育児に関心を持たなかった父親が急に積極的になったとか聞きましたけど、それはちょっと話を盛ってるかもしれない(笑)。前橋市は高齢者などの条件を満たす人についてはタクシー利用補助のサービスもしているんですが、これもマイナンバーカードに紐づけして手続きの効率化を実現しようとしています。こういった取り組みが、さまざまな自治体で進んでいくところからでしょうね、地方創生とICTの組み合わせの充実は。