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なぜ“情報は21世紀の石油”なのか? 桜井俊・元次官が語る「ICT×地方創生」

情報通信技術政策のプロが考える日本の未来

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来たるべきICT社会 働き方と教育はどう変わる?

――ICT技術と地方創生の今後の展望として、地方でも都市部と同じように働ける環境を実現しようという「テレワーク」推進の動きがあると思います。これについては、どのようにお考えでしょうか。

桜井 まさに働き方改革と言われている分野ですよね。昨年、徳島県が過疎地域8市町に首都圏のICTベンチャー企業を誘致する「サテライトオフィスプロジェクト」を実施したところ、40社が進出し、60名以上の雇用を生み、神山町という町では人口の社会増が社会減を超過するという例が生まれました。東京一極集中型ではない日本社会の実現の可能性を見る思いがします。

以前からテレワークを受けいれていた徳島県神山町でのテレワークの様子。改築した木造家屋に大容量のデータのやりとりができる通信回線を敷いているという(2013年7月) ©共同通信社

――ICT社会実現に向けて、次世代への教育はどうあるべきなんでしょうか。

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桜井 一つはこれまで新しいメディアが普及するときに行ってきたようなリテラシー教育をきちんと行わなければなりません。どんな便利なものであっても、必ず陰の部分はあるわけですから、そこに目配りをして策を講じていくのは国の仕事でもあるはずです。もう一つはプログラミング教育の充実だと思います。

――プログラミング教育ですか。

桜井 今、文科省を中心に小学生からのプログラミング教育義務化を実現できるよう準備を進めているところです。充実させるべき理由は大きく2つあるんです。1つはこれからの時代、あらゆる社会インフラがコンピュータで動いていくことになるわけです。ですから、最低限何がどういう仕組みで動いているのか、システムがどう成り立っているのかを把握できるようになることは時代の素養だと感じています。もう1つは、問題設定と解決策を論理的に考える力が、これからの子どもたちには必要なんだと思うんです。

 

――問題解決能力を伸ばす教育をしていくべきだと。

桜井 そうですね。同時に創造力を発揮できるような教育も必要になっていくと思います。人工知能が人間の能力を超える「シンギュラリティ」を提唱したレイ・カーツワイルさんの本を読んでいると、これまでの詰め込み教育、覚えることに特化した教育というのは時代にそぐわないというようなことが書いてありました。『文藝春秋』でも経済学者の井上智洋さんが、人間にしかできないのはクリエイティビティ、マネジメント、ホスピタリティの3分野だと仰っていましたが、その通りだと思います。

官僚に求められることは「常に公平であろうと努力すること」

――問題解決能力や創造力が重要になってくる中で、次世代の官僚に求められることとは何でしょうか。官の仕事を勤め上げられた桜井さんにあえてお伺いしてみたいのですが。

桜井 何でしょうね……。まあ、調整力だろうなとは思いますけどね。次世代というものに限らず、官僚というものはいつの時代も、様々なステークホルダーを調整していかなければ政策ひとつ進められないわけです。まず、そのことを胸に。そして、この仕事をするときには、常に公平であろうと努力することが大事だと思います。

――あろうと努力すること、ですね。

桜井 そうです。公平というものなんて、人の価値観によって違うものですから。そうではあるけれども、あるべき全体の公平に向かって努力すること。それがこれからの官僚にも大切なことだろうと、私は思います。

 

写真=鈴木七絵/文藝春秋

さくらい・しゅん/1953年群馬県生まれ。前橋高校、東京大学法学部卒。77年旧郵政省に入省。情報通信部門に長く携わり、2001年の総務省発足後は情報通信国際戦略局長、総合通信基盤局長、総務審議官(郵政・通信担当)を経て、15年から16年にかけて総務事務次官。現在は三井住友信託銀行顧問、一般財団法人・全国地域情報化推進協会理事長。

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