経済産業省の20代から30代の若手官僚が中心となってまとめた報告書「不安な個人、立ちすくむ国家 ~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」。5月18日にネット上にアップされると、話題は次々に拡散し、ついには1カ月で100万ダウンロードを突破、現在131万ダウンロードを数える(6月24日時点)。

 従来「霞が関文学」とさえ揶揄される官僚のレポートが、なぜここまでネットで共有され、広がり、賛否両論を巻き起こしたのか。

 このプロジェクトに参加した30人のうち、5人のメンバーが集まり、作成の経緯から、提示した「日本の未来像」、そして「これからの官僚の姿」までを語り合った。

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 座談会に参加したメンバーは、上田圭一郎さん(H18入省/33歳 大臣官房秘書課 課長補佐)、菊池沙織さん(H25入省/28歳 大臣官房総務課 総括係長)、今村啓太さん(H26入省/27歳 商務情報政策局 メディア・コンテンツ課 総括係長)、須賀千鶴さん(H15入省/36歳 商務流通保安グループ 参事官室 政策企画委員)、高木聡さん(H23入省/32歳 大臣官房総務課 法令審査専門官)*肩書は6月30日時点。

左から、上田さん、菊池さん、今村さん、須賀さん、高木さん

官僚にとって「次官室」に入るということ

――公表から2カ月が経とうとしていますが、未だ反応は多いんですか?

須賀 だいぶ落ち着いてきましたが、これほどまで読まれるとは想定外でした。公表した次の朝にバズっているのを見て本当に驚きました。

――官僚の文書がバズるなんていうことは前代未聞だと思うのですが、そもそもこのレポートを作成する「次官・若手プロジェクト」はどんな経緯で発足したのでしょうか?

上田 菅原郁郎事務次官の発案だと聞いています。若手が中長期の課題について自由闊達に議論をする場がないので、作らなければいけないという問題意識があった、と。2016年の8月に職員への公募がかかり、中長期の課題について考えたい若手が手を挙げて、9月に30人のチームが編成されました。

菅原郁郎経産事務次官 ©時事通信社

――菅原次官は「大物次官」としてメディアにも取り上げられることが多い方ですが、実際にはどんなお人柄なのでしょうか。

今村 親分肌……?

高木 僕は今の部署で初めてご一緒したのですが、若手を育てることに心を砕く人だな、という印象を持ちました。もっと政策目標に向けて猪突猛進するタイプの方かと思っていました。

須賀 経営者ですね。次官はおそらく経産省という組織の経営を本気で考えていて、このプロジェクトもマネジメントをする上で必要な人的投資だと考えているのだと思います。

須賀千鶴さん (H15入省/36歳 商務流通保安グループ 参事官室 政策企画委員)

――次官とは直接話し合う機会が設けられたのですか?

上田 次官になってからは毎週金曜、若手5、6人を呼んで、次官室でエンドレスで議論していたそうです。人事が企画した「幹部を囲む会」のような会合はこれまでもありましたが、幹部自ら声をかけて、しかも次官と直接、というのはかなり珍しいと思います。しかも次官室で。

今村 さすがに最初は緊張しましたが、こちらの意見を丁寧に聞き取ってくださり、なごやかな場でした。

――次官室って普段から気軽に入れる場所なんですか?

須賀 若手がふらっと入れる場所ではないですね。守衛さんもいるし、絨毯もフカフカで、格式高い雰囲気なんです。

菊池 国旗もありますしね。

高木 だから普通は生煮えのアイデアを持っていく場所ではなくて、明日プレスリリースです、くらいの熟度じゃないと持っていけない。

須賀 次官室に何かを持っていくということは、幹部も含めた多くの確認や調整を経た上でなので、たまに次官の意向で修正が入ると「担当部署がもっとしっかりしろよ」となる。でも今回のプロジェクトでは、ひどかったよね(笑)。「資料1枚しかできてないですけど」みたいなレベルで次官に持っていく。

高木 あとは、「とりあえず次官室に持ってって議論しようか」とか。

上田 間に合わないから資料の途中から手書きになったりして。

今村 普段はブレストをする部屋ではないんですけど、今回は次官室での時間の半分はブレストだったように思います。

須賀  次官から直接「時代が大きく変化しているときに、これから10年、20年かけて時代に対応して社会を変えていくということをやりとげるべきだ、という思いを若手に引き継ぎたかった」という話を聞いて、ちょっと感動というか、本気度を受けとめた気持ちになりました。