「マー君、神の子、不思議な子」。
イーグルス入団1年目2007年8月3日。4回5失点するも6回を投げきり勝利投手になったマー君。野村監督は負けがつかないマー君に驚き、そう言った。
「何点取られるか投げ続けさせたら、天から神が降りてきた。先祖代々何かあるんだろうな。そういう星の下に生まれている」
僕たちの知っているマー君は勝ち運に恵まれた代名詞のピッチャーだった。
しかし、今年はその勝ち運はどこへやら無援護が続き、とにかく勝てない!
先発投手の安定感を表す指標のQSは12回、QS率75%はリーグ5位、イーグルス先発陣ではトップ。防御率2.86はリーグ4位、こちらもイーグルス先発陣の中で一番の成績なのだが、何かに取りつかれたように勝運に恵まれずここまで4勝5敗。東京五輪後の後半戦は未だ勝ち星ゼロ。開幕当初右足ヒラメ筋損傷で出遅れがあったものの、安定感は、数字にもしっかりあらわれている。次のパワプロでは、マー君に『負け運』がついてしまうのが確定なんじゃないかとヤキモキしているファンは僕だけではないはずだ。
なぜマー君のときに打てなくなるのか 枡田慎太郎さんに聞いてみた
実際にその不運さは、投手が1試合あたりどれだけ打線の援護を受けたかを表す指標、援護率を見れば一目瞭然。援護率とは「降板前に取った味方の得点×9」÷「降板までの攻撃回数」で計算する指標で、今シーズンここまでのマー君の援護率2.56は、自身の防御率より低い援護率でリーグワースト。つまりリーグで一番援護をもらっていない先発投手なのである。
マー君がもっとも勝ち運に恵まれた2013年。24勝無敗の伝説を残したその年は、援護率は6.08でリーグトップ。防御率1.27のマー君からすればお釣りが十分くるほどの援護をもらっていた。
2013年に比べて打線が弱い、という根本的な問題はあるだろう。106試合を終えチーム打率.246、得点406、本塁打81は全ての数字でリーグ5位。チーム打率.267、得点627、本塁打97はいずれもリーグ2位の成績だった2013年と比較すると今年のイヌワシ打線は頼りない。
しかしなぜマー君のときに、特に打線は打てなくなるのか。
2013シーズンの後半戦、6番レフトでレギュラー定着し日本一に貢献した枡田慎太郎さんにも話を聞いた。
「一般論として勝ち星のつかない投手に、野手陣が気を使うかというと……そこまで気はつかいません。勝ち負けは運の要素も大きいですしね。ただ、今年の田中投手に限って言えば、過去に一緒に戦った現役選手も少なくなり年下が多くなっているなか、田中将大を勝たせなければ、というプレッシャーが野手陣が感じている気がします。田中投手はたしかに当時からすごい投手でしたけど、入団当初からみている僕らからしてみれば、チームで特別扱いはしてなかったんですよね」
2021年の田中将大は、メジャーリーガーとしても実績を残したスーパースター。日本球界のレジェンドになったマー君に対し、マー君より年下で当時を知らない野手陣からすれば緊張するな、というのが無理な気もする。枡田さんの言う通り、それが知らないうちにバッティングの力みを生んでいるのかもしれない。
2013年のイーグルスとマー君を知るメンバーで、現在も現役かつ一軍ベンチ入りの野手は、島内と岡島。しかし、この二人も当時はヤングボーイだったわけで、かつマー君よりも年下、普通に考えれば遠慮する部分もあるだろう。
年齢的にマー君のひとつ上となる銀次は、コロナ療養を終え現在二軍調整中。若かりしマー君を知っている直人も鉄平も半袖魔神も一軍コーチという立場になっている。マー君自身に“故郷”イーグルスを思わせるようなホッとさせるベテランの存在、例えば藤田一也が一軍昇格すればばまた変わるのかもしれないなあと、枡田さんの話を聞いて思うのである。
「勝ちがつくつかないは、運の要素が大きいですよ」
枡田さんは言う。たしかに。
そうだ、勝ち運に見放されてるのであれば神様にお願いしにいけばよいか――。