「三森大貴応援アカウント」を立ち上げたキッカケ
当然、ここに来るまで簡単ではなかった。プロ3年目で初めて1軍を経験し、プロ初安打も放った。4年目の昨季は初めて開幕1軍入りを果たすも、2ヶ月足らずで2軍降格。試行錯誤を経て、その後2軍で結果を出し続けると、ウエスタン・リーグ首位打者、最高出塁率のタイトルを獲得した。
「1年間、1軍で戦いたい。去年、一昨年と1軍で経験することは出来たけど居続けられなかった」
今春キャンプ中のインタビューでそう話していた三森選手。1軍と2軍の差、1軍で戦い抜く上での力不足を痛感していた。そんな現状を打破したいという思いが滲み出ていた。1日1000スイングが課されたキャンプで、小久保裕紀ヘッドコーチが名前を挙げてその姿勢を評価したのは三森選手だった。また、寡黙な男が嗄れるほどの声を出しながら、泥だらけになって本多雄一内野守備走塁コーチの特守を受けていた姿は本当に印象的だった。
開幕こそ1軍で迎えられなかったが、6月に昇格すると、そこからはチームに欠かせない存在となった。課題とされていた守備でも、チームを救う好プレーが目立った。これから益々の活躍に期待したい。
そんな弟を全力で応援している兄・一輝さんが、ツイッターで「三森大貴応援アカウント」を立ち上げたのは1年程前。キッカケは、SNS上で相次ぐ選手へのネガティブな投稿に嫌気がさしたからだった。「俺が流れを変えたいと思った」と一輝さんは、弟のことを中心に、ホークスの選手たちが頑張っている姿やポジティブなことを発信し、盛り上げようと考えた。そして、少しでも弟のことを応援してくれる人が増えたらいいなという思いだった。
「とにかくマサのファンが増えたらいいなと。家族には何やってんのっていじられますけど、みんな見てくれています。おやじには余計な事すんなよって言われますが、そう言いつつ一番気にして見てくれていますよ。私がツイートした投稿を、すぐ三森家のラインに共有してきますからね(笑)」
三森家の温かい風景が浮かんだ。三森選手自ら積極的に発言する方ではないし、家族が公の場で発言する際もいろいろと気を遣うことが多いと思う。しかし、一輝さんはむしろ「自分が第一人者になってやろう」と全力で家族の想いや弟へのエールを発信したり、ファンとコミュニケーションを取ったりエネルギッシュに活動する。
また、「マサのキャラじゃ人気者になれないんだよなー」と弟のことをより応援してもらうためにはどうしたらいいのか、芸能事務所のマネージャーのように頭を捻る姿勢も微笑ましい。「マサがヒーローになったら俺が代わりにお立ち台で喋ってやりたい(笑)」ととにかく楽しく優しいお兄さんだ。
一輝さんの思いは実際にファンにも届いている。私の知るタカガールTさんは新人合同自主トレ以来の三森選手ファンだ。「頑張って下さいって声を掛けたら、しっかり顔を見てありがとうございますって応えてくれたんよ」と当時を振り返ってくれた。いつも遅くまで泥だらけになって練習に取り組む姿に心を動かされたという。さらに、どんなに疲れていてもファンに真っすぐ対応してくれて、写真をお願いした時もしゃがんで高さを合わせてくれた。クールだけど優しい、そんなところも三森選手の魅力なのだそう。彼女も「お兄さんのお陰で三森選手の今まで知らなかった一面が知れた」と喜んでいたし、周囲に三森ファンが増えた実感もあるという。
三森選手の飛躍の後ろにはパワフルな兄をはじめ、心強い家族の存在があった。一輝さんのお話を伺って、三森選手のポーカーフェイスの奥に宿る覚悟や闘争心がより一層垣間見えた気がする。これからどんどん道を切り開き、チームを引っ張る選手へと成長していく姿が楽しみだ。貴重なお話を聞かせて下さった一輝さん、ありがとうございました。
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