開会式直前の関係者“辞任ドミノ”に始まり、メダル候補のまさかの敗戦やダークホースによる下馬評を覆しての戴冠劇、コロナ禍で開催され、明暗含めて多くの話題を呼んだ東京オリンピック。ついにその長い戦いも閉幕しました。そこで、オリンピック開催時期の掲載記事の中から、文春オンラインで反響の大きかった記事を再公開します。(初公開日 2021年8月12日)。
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「五輪の大会期間中の新型コロナの検査体制は、驚くほど杜撰でした。“あの騒動”も、起こるべくして起こったと思います……」
そう訴えるのは、五輪のある競技種目で技術役員を務める男性だ。
五輪開幕に先立って来日したIOCのトーマス・バッハ会長が「しっかり執行され、効力を発揮し、そして成功している」と胸を張ってみせた検査体制。実際には何が起こっていたのか――。
審判員男性2名がホテルから外出したワケ
“あの騒動”とは7月29日、新型コロナの陽性が確認されたボート競技の審判員男性2名が、独自に医療機関で検査を受けるために、宿泊療養先のホテルから外出したこと。翌30日にテレビ朝日が〈新型コロナ陽性の審判員2人 宿泊療養施設から無断外出〉と報じ、明るみに出た。
「2人は療養先のホテルに陰圧車を呼び、ホテルの職員に施錠を解除してもらって、医療機関へ向かったのです。大会の規則集であるプレーブックでは、陽性となった関係者には、宿泊療養施設での隔離か入院が求められている。そのため、2人の行動はプレーブック違反ではないかと報じられましたが、組織委員会側の見解は『施設を抜け出したという行為ではない』という曖昧なものでした」(五輪担当記者)
では、なぜ2人はわざわざ医療機関へ向かったのか――。
背景には、検査体制への不信感があったという。
「2人のうち1人は日本人、もう1人はオランダ人の審判員でした。このオランダ人審判員は、奥さんが医師なのですが、自身が受けた検査について奥さんに説明すると『その検査はおかしい。正確な検査を受けるべきだ』と促されたそうなのです」(オランダ大使館関係者)
組織委員会によるPCR検査の運営には「杜撰な点が多い」
プレーブックによれば、選手と定期的に接触する審判員は、毎日、唾液を用いた検査を受ける必要がある。唾液で陽性反応が出た場合には、鼻咽頭によるPCR検査を受ける。綿棒を鼻から喉の奥に入れて検体を採取するもので、唾液よりも精度が高いとされる検査だ。鼻咽頭検査でも陽性となれば、隔離施設に移動することが定められている。
ところが、この検査について、関係者の間で疑義が広がっている。前出の技術役員はこう訴えるのだ。
「五輪関係者に対して行われていた検査システムには、杜撰な点が多いのです」