「30分で結果が出る」鼻咽頭PCR検査
それだけではない。唾液検査で陽性反応が出たため、鼻咽頭PCR検査を受けたある競技関係者は、こう語るのだ。
「私が受けた鼻咽頭PCR検査も、説明が十分ではありませんでした。陰圧車の中で検査を受けるのですが、そこにいるのは看護師とドライバーのみで、医師とはiPad越しに会話をするだけ。そこでは『検査結果が出るのは30分ほど後になる』と説明されました。そして実際に約30分後に、鼻咽頭検査でも陽性だったと連絡があり、隔離措置となりました。事前に組織委員会から、どういった人たちが検査を行っているのかなどの説明は一切ありませんでした」
この鼻咽頭PCR検査は前述の通り、木下グループが医療協力として業務提携をしている「医療法人社団 和光会 キノメディッククリニック高田馬場」が行っている。その際に使われている検査機器は、スイス製のロッシュ社「cobas Liat」と呼ばれるもので、日本には数十台しか納入されていない。厚労省も保険適用を認めた世界最高峰の機器だという。
だが、じつはこの「30分」というのは驚くべきスピードなのだ。PCR検査を行う都内の医療機関の関係者が語る。
「ウチでは結果が出るまで最短でも100分はかかります。陽性なら早く反応が出ることもありますが、『恒常的に30分で結果が出る』のだとすれば、相当に特殊な検査なのだと推測されます」
無断外出とされたオランダ人審判員も、検査体制に疑いを抱くきっかけとなったのは、検査スピードだったという。
「彼の場合は、組織委に求められた鼻咽頭PCR検査の結果が42分で出た。医師である彼の奥さんは、結果が出るのが早すぎることに『それは本当にPCR検査なのか?』と疑問を抱いた。それで、医療機関による正確な診断を受けるべきだと助言したそうです。彼は母国のボート関連のサイトにブログを寄稿していますが、そこでも検査への不信感を滲ませています」(前出・大使館関係者)
組織委員会による「検査への説明不足」
前出の競技関係者も言う。
「なぜこんなに早く検査結果が出るのか尋ねても、陰圧車のドライバーが『五輪に向けて最新機器を導入したから』と言うばかり。仮にそうだとするならば、それがどういった機器で、これから行われる検査が民間のものなのか、それとも医療行為なのかといった説明が組織委からあって然るべきでしょう。医師による合理的な説明もありませんでした。ホテルから外出した審判員2人について、プレーブックで定められている継続的な隔離というルールから逸脱することには賛成できませんが、検査結果に納得が行かないという気持ちは理解できます」
株式会社木下グループに検査システムについて聞いたが「組織委員会との契約上、五輪の検査に関してはコメントできない」との回答だった。また、検査体制の不備について組織委員会に見解を問うたが、期日までに返答はなかった。
前出の技術役員が嘆息する。
「これから、パラリンピックも始まります。パラでは基礎疾患を抱える選手も多い上、介助者などの大会関係者も増える。より一層正確な検査体制が求められるはずなのですが、いまのままで果たして大丈夫なのでしょうか」
パラリンピックの開幕は8月24日。選手や関係者、さらには国民が安心できる検査体制の整備が求められる。
※追加取材を受け、一部加筆・修正のうえ掲載しています。