筆者と漆原氏が出会ったのは5年ほど前のことだった。当時、彼の経営する闇カジノには有名俳優やスポーツ選手が群がるように通いつめていた。闇カジノを経営することも、客として闇カジノでギャンブルを行うことも、言わずと知れた犯罪である。犯罪だと分かっていてもなぜ人は惹かれるのか。有名人をひきつける闇カジノの魅力とは何なのか? 当時、解決しえなかった疑問を改めて晴らしたいと筆者は考えた。
「闇カジノという犯罪の実態を知りたい」と漆原氏に相談したところ、「面白そうですね。取材を受けてもいいですよ」と快諾を得た。ニュースやスキャンダルで浮かんでは消える闇カジノという名前、だがそこで何が行われていたのかについてはなかなか伝わってこない。当連載では漆原氏証言をもとに知られざる闇カジノの実態により深く迫るつもりだ。
博打は「不景気な時ほど儲かる」
「少し歩きましょうか?」
そう漆原氏は語ると道玄坂の坂道を歩き始めた。
客引き、風俗嬢などがせわしなく行きかう姿が見える。
「お兄さん! ギャンブルどうですか。闇スロ、インカジあるよ」
石畳の路地を筆者がウロウロしながら遅れて歩いていると、初老の客引きが小さな声で囁きかけてきた。歌舞伎町や渋谷などの繁華街ではお馴染みの光景である。一般的な客は、こうした客引きの誘いから闇カジノという世界に足を踏み入れることが多い、という。
喫茶店に取材の場所を移した。漆原氏は闇カジノが廃れない理由をこう語った。
「博打って不景気な時ほど儲かるんですよ。しかもいまは緊急事態宣言で抑圧、抑制をしているので多くの人はストレスを溜め込んでいる。『飲む、打つ、買う』と言いますけど、昔からいう人間のストレス解消はこの3つだった。飲むは飲酒、買うはオンナ、打つはギャンブルですよね。ストレス解消と、いまコロナでカネを使う場所がないということも闇カジノに人が集まる理由になってますよね」
不景気でも金を持っている人間は持っている。六本木ヒルズの闇カジノがコロナ禍のなかで摘発されたのも、その一象徴なのかもしれない。
大きく2つある“違法カジノ店”
闇カジノには大きく分けて2つの種類がある。
バカラ台やルーレット台、闇スロット台などを設置し、ディーラーや黒服が客を接遇するリアルギャンブルを提供する店と、店舗にパソコンを並べただけで客はパソコンに向かいオンラインギャンブルを楽しむ店の2種類である。前者を一般的には「闇カジノ」と呼び、後者は「インカジ(インターネットカジノ)」という名前で夜の街では知られている。呼称こそ違うが、どちらも“違法カジノ店”であることに変わりはない。
「両店とも広義の意味では『闇カジノ』という括りに入るのですが、じつは罪状が違う。バカラ台等を設置したカジノ店に対しては賭博開帳図利罪(5年以下の懲役刑)が適用される。これは罪状が重く、場合によっては一発で実刑もある。一方でインカジは常習賭博(3年以下の懲役刑)で少し罪が軽い。摘発されても執行猶予がつくことが多い。超ハイリスク超ハイリターンなのが闇カジノで、インカジは薄利多売で稼ぐというイメージです。闇カジノには『超』がつく。逮捕覚悟でビジネスをしなければいけないのだから『超』ハイリスクだといえるのです」(漆原氏)
身分証を提示し誓約書に記入…その内容は「闇カジノの基本ルールです」
客引きに連れられて客が闇カジノを訪れた場合、まず要求されるのが身分証の提示と誓約書への記入である。店側は客の品定めをここで行うのである。じつは客の様子は隠しカメラで映像も抑えられている。
漆原氏がブルーの分厚いファイルを取り出しテーブルに置いた。誓約書をファイルしたものだった。つまり極秘の顧客リストである。それを今回は特別に公開してくれるのだという。分厚いファイルには数百名にも及ぶ書類が丁寧に綴られていた。