昼過ぎの渋谷区道玄坂。風俗街やラブホテルが立ち並ぶ、この猥雑で古い街角はコロナ禍もあり閑散としていた。待ち合わせ人、漆原康之氏(仮名)は古めかしいビルの入り口でこちらを出迎えてくれた。

「ここの上が闇カジノになっているんですよ」

 彼は静かにビルの上を指さした。

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 漆原氏は長らく夜の街を棲家としてきた元闇カジノのオーナーである。10代から業界に入り、ヤクザや半グレという裏社会、ヒルズ族・芸能人などの表社会で活躍する人間たちの裏の顔を見つめてきた。

 裏社会に通じカジノ知識も豊富なことから“闇カジノのプリンス”という仇名を持つ。優男風の外見とソフトな語り口は、確かに裏社会の人間とは思わせないスマートさを感じさせる。

 彼はつい最近まで「闇カジノ」経営を行っていた。現在は裏家業からは足を洗いネットビジネスなどを本業としている。
 
「もとからギャンブル好きだったので長年闇カジノを経営していた、というのもありましたが、年々、警察の取り締まりが厳しくなったこともありリスクが高すぎるので廃業することにしました。いまは、趣味でアミューズメントポーカー(換金できない合法ポーカー)を楽しむくらいでしょうか。ポーカーは弱いけど、いろんな人と楽しめるからハマっていますね」(漆原氏)

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「あそこの闇カジノはポンコツ箱ですから」

 漆原氏は「六本木の事件ですか? あそこの闇カジノはポンコツ箱ですから」とサラリという。ポンコツ箱とはイカサマを行う闇カジノのことを指す業界の隠語である。

 六本木の事件とは、今年6月、東京・六本木ヒルズで営業していた闇カジノ店が摘発されたこと。警視庁組織犯罪対策4課は、賭博開帳図利の疑いで店長の男を逮捕、同ほう助容疑でディーラーなどを担当していた従業員の男5人を現行犯逮捕したのだ。摘発された店長は「賭博目的ではなく、カジノスクールを開いていた」などと供述しているという。

「カジノスクールの実態はなく、警視庁組織犯罪対策4課は摘発逃れの方便だと見ているようです。従業員の一部は容疑を認めており、賭博容疑で逮捕された客も『金を賭けていた』と供述しているようです。六本木という土地柄、顧客には有名人もいたのではないかという噂が駆け巡りました」(全国紙社会部記者)

 近年、闇カジノという言葉が世間を騒がせる機会が多くなった。一つの理由はオリンピック開催を睨み、警視庁による街の浄化作戦が行われ闇カジノ摘発が相次いだからだろう。

 筆者はパチンコもしないし、麻雀もしない。ギャンブルを趣味とはしていないばかりか、どちらかと言えば興味も薄いほうかもしれない。しかしながら闇カジノを巡るニュースには強い関心があった。人はなぜギャンブルに狂い堕ちるのか。そして闇カジノの店内では何が行われているのか――。