ディーラーが素早い手さばきでカードを配る。客は目を血走らせながらバカラ台を凝視する。テーブルは異様な熱気に支配されていた。黒いシャツを着た客はディーラーの配るカードを凝視し、パーカー姿の客は目を閉じて何かを思案している。そしてバカラ台にはカラフルな色をしたチップが積み上げられていくーー。
漆原氏から提供された闇カジノの隠しカメラの映像に残されていたのは、まさに違法賭博が行われている現場そのものだった。
バカラは人気ギャンブルであると同時に、一夜にして巨万の富を得ることもあれば、あっという間に数億円もスッてしまう危険なギャンブルとしても知られている。
そのルールは実にシンプルだ。「BANKER(バンカー)」と「PLAYER(プレーヤー)」という架空の二人の人物に対して、客は第三者としてどちらが勝つのかを予想し賭けるというゲームである。ディーラーが配るカードの2~3枚のカードの合計の下一桁が9に近いほうが勝ちというルールで行われる。
漆原氏が語る。
「世界的にはポーカーが主流ですが、バカラはアジア人が大好きなギャンブルとして知られています。ラスベガスに行っても遊んでいるのはほぼアジア人だけ。丁半博打に近いから馴染みやすくハマりやすい。日本でも同様で富裕層向けのギャンブルとして人気があり、闇カジノでもVIP用の定番ギャンブルがバカラなのです」
「闇カジノは大人のディズニーランドだと思え」
かつて漆原氏が手がけていた闇カジノ店内の写真を見せてもらった。ルーレット台やバカラ台が並ぶ店内は独特の雰囲気である。置かれている家具は高級家具ばかり。広い室内は高級感ある内装が施され間接照明の灯りに照らされている。店の中央には派手な花が装飾的に飾られていた。闇カジノを社交場と考えている客がいる、というのも頷ける店内である。
VIPを相手にするので闇カジノでは接遇も重要な仕事だった。
「店ではサービスを徹底して行っていました。お客さんをいかに楽しませて、負けたお客さんにどれだけフォローをかけて、明日また来てもらえるようにするか。例えばタクシーまでお見送りするのに、負けたお客さんでも最後笑顔で帰らせられるようなトークを行う。プレイ中にもお客さんを飽きさせないために、7人座ってるテーブルだったら、7人のお客さん全員と会話する。ただお客さんの区別もしっかり行っていました。例えば1万円握りしめている人間が、1000万も勝負してる卓のところで立って見ていたら気が散っちゃうじゃないですか。ちょっと調子に乗って見に行っちゃうお客さんを排除するのも仕事の一つでした」(漆原氏)