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IOCの大名行列?

 東京五輪を巡ってはIOCの絶大な権力が注目された。新聞各紙が“不平等条約”と書いた開催都市契約によるものである。平たく言えばIOCが権利を保持し、興行のリスクは開催都市が負う契約。総収入の7割超を占めるテレビ放送権料を得て安泰なIOCと、膨大な出費を抱える東京都の比較は、両者の関係の象徴である。

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 IOCの威光は現場で実感できた。例えばIOC幹部が準備状況を視察する際、各競技場は大名行列を迎える宿場町よろしく、会場準備と同時に視察団の迎え入れ準備に追われた。考えてみれば、大会そのものが世界各地で大名行列を受け入れる宿場町のようなものだ。

 ただ現場ですべてを動かしているのは開催都市の組織委である。大会の隅々までIOCの人間が目を光らせているわけではない。少なくとも私の持ち場のIOCの視察でいうなら、肝心の指摘はいずれも些末なものだった。本当に大きな問題点は見逃されており、それらは組織委内部で職員が指摘し、現場の指揮系統の中で処理されていた。

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IOCとの「合意なき決定」

 2019年10月、IOCは東京五輪のマラソン会場の札幌市への変更を発表した。小池百合子都知事が「合意なき決定」と憤った一件である。開催都市契約には、話し合いで解決できない問題の決定権がIOCにあること、開催都市や組織委が新しい指示のすべてに対応することが明記されている。それがIOCの決定をのまざるを得なかった理由である。

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 ただ、ここで見逃されている選択肢が一つある。IOCが決定しても従わないという選択である。IOC自らが実働部隊を使って札幌市のマラソンコースづくりをすることはない。開催都市契約が何と言おうと、組織委が動かなければマラソンコースは物理的に動かないのである。大会という“人質”を確保しているのは開催都市側であり、その切り札を使うことによってのみIOCとの対等に近い交渉が可能になる。

 マラソンの札幌開催には、東京都だけでなく日本陸連の強化委員会も反対した。しかし組織委はIOCの意をくんで動いた。開催都市を代表するか、IOCの下請けに終始するか。東京五輪のマラソン問題に限らず、組織委に問われることである。過去の大会には、IOCと組織委の戦いから変革が生まれた例がある。

椅子を叩き壊した組織委会長

 五輪に大変革が起きたのは、1984年のロサンゼルス大会である。旅行業界から転身した組織委のピーター・ユベロス会長が、大会のチケット税など1930万ドル以外に公費を使わず、2億ドル以上の黒字を出したことで知られる。