文春オンライン

「25歳男性は失踪、37歳女性は獄中死寸前…」武漢ウイルス研究所に迫った記者たちの“凄惨すぎる現状”

『武漢病毒襲来』著者インタビュー

2021/09/20

source : 翻訳出版部

genre : ニュース, 国際, 読書, 医療

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 彼女は歩きながら、こう解説していました。「武漢ウイルスの発生源はこのあたりかもしれない。この四角い建物と丸い建築物の中なのかも」。その結果、彼女はまもなく逮捕されました。張展は逮捕されたのち、長期にわたってハンガーストライキを行ったために衰弱しており、獄中死する可能性が非常に高いです。

衰弱して髪が抜け落ちたジャーナリスト

――張展は2020年12月28日、公共秩序擾乱の罪で懲役4年の実刑判決を受けました。公判に出てきた彼女の様子をネットで見ましたが、まだ37歳なのに、衰弱して髪も抜け落ち、老婆のようでした。武漢で取材をしたのちに失踪し、5月になって上海で逮捕されたことが明らかになりました。当初は無罪を主張し、食事を拒否したため、喉に管を通して栄養を取らされる強制摂食などの非人道的扱いを受けていたとか。

 アムネスティ・インターナショナルなど国際組織が彼女の釈放を訴え続けています。こうしたジャーナリストたちにあなたが共感するのは、あなたもジャーナリスティックだから?

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廖 私は人生の大半をかけて、低層社会の人々の物語を取材して書いてきました。それを中断することはありません。2008年の四川の大地震の時、私はその日のうちに、もっとも被害のひどい北川県の被災地に駆けつけました。そこは県城全体が崩壊し、埋葬地のように埋まってしまい、少なくとも2、3万人以上亡くなっていると思われました。県城を再建することは難しく、数十キロ離れたところに新しい北川県県城を建設するしかありませんでした。

逮捕された張展の釈放を求めるデモは香港でも行われた(2020年12月28日撮影) ©AFLO

 しかし、当局はこの地域の死者数と汚職の真相を隠蔽するため、この四川大地震を「汶川地震」と名付けました。震源地の汶川県と北川県は数百キロ離れており、汶川県の死者は400人弱だった。今、世界の多くの人たちはこの地震のことを、中国政府が名づけたように「汶川地震」と呼んでいます。でも、私は四川大地震のルポルタージュ『地震瘋人院』の中で、この大地震を「四川地震」と呼んでいます。

 今度の災難においては、私は武漢に駆けつけることができませんでした。もし現場に入っていたら、おそらく『武漢病毒襲来』の主人公、艾丁と同じ運命をたどっていたことでしょう。

中国人も「真相」を知りたい

――『武漢病毒襲来』にも登場している女性医師、艾芬の報道が文春オンラインでも紹介され、大きな反響を呼びました。あなたが、日本の読者にもっと知ってほしい当時の武漢の物語を教えてください。

廖 日本の読者に知ってほしいのは、中国人は共産党に何度も洗脳されてきてはいても、真相に対する興味はやはり強烈で、これが独裁者にとって最大の脅威だということなのです! 艾芬医師の物語については、『武漢病毒襲来』の第4章「李文亮は逝き、真相はすでに死んだ」の中で、猛烈な勢いで拡散した様子が描写されています。

 艾芬医師は共産党員であることよりも人としての正義感が打ち勝って、月刊『人物』の取材を受けたわけですが、この記事は、新型コロナ感染期間全体を通じて最もセンセーショナルな記事になりました。

 当局はすぐにインターネット上で削除するのですが、その削除までのほんの短い間に、ものすごい勢いで拡散していきました。武漢から警鐘を鳴らすも警察からデマを拡散したとして訓戒処分を受け、その後、無防備な状態で患者の診察を続けて新型コロナに感染した眼科医・李文亮の悲劇に呼応したのです。