8月27日、米政府の情報部門統括組織「国家情報長官室」(ODNI)が、“あるレポート”を提出した。報告書そのものはまだ機密指定で公表されていないのだが、同日、その要点を記した2ページの概要説明文が発表されている。そこには「コロナは中国の研究所から流出した説」の風向きを変えうる重要な内容が含まれているのだ――。

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様々な議論が過熱するコロナの起源

 コロナの起源に中国が関わっているか否か。これはきわめて深刻な問題である。

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 新型コロナウイルスは自然な変異で誕生したのか、あるいは中国・武漢の研究所から流出したのか?

 仮に研究所から流出したとするなら、それは遺伝子操作で作られた可能性はあるのか?

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 もしも人工的に作られたのであれば、中国の罪の大きさは、はかり知れない。今の世界秩序が崩壊するレベルの大スキャンダルだ。仮に人工的に作られたのでなかったとしても、研究所内で保管もしくは変異し、それが流出したのであれば、やはりそれを隠してきた中国の責任は大きい。

 米国ではこの問題は大変注目されている。メディアでも繰り返し関連情報が報じられており、ネットでの議論も過熱している。

 そもそも、「研究所流出疑惑」は昨年、パンデミックが発生した直後から、一部で話題になっていた。筆者は当時から継続してその情報の拡散パターンをウォッチしてきたが、当初注目されたのは「生物兵器説」だった。具体的な根拠のない陰謀論のような話だったが、反中国派・親トランプ派のネットメディアや陰謀論サイトを媒介して拡散した。米大統領選で問題視されたQアノンと同様のフェイク情報拡散パターンだった。

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 また、生物兵器とまでは言わないものの、中国が遺伝子操作で作ったという人工ウイルス説も、同じような陰謀論のパターンで拡散した。じつは、コロナの起源に関しては確たる証拠はなく、自然発生説も人工説も研究所流出説も科学的に可能性が否定されていなかった。しかし人工説や流出説を推す論考はいずれも科学的根拠が不充分で、しかも陰謀論パターンで拡散したため、説得力は著しく低かった。そのうえ、トランプ前大統領自身が曖昧な態度で拡散し、後に事実上撤回したため、さらに信用度が落ちた。

 ここまでは「研究所流出疑惑」についてはアメリカの有力メディアも極めて慎重に報じていた。ただ、そのためにまだ科学的に否定されていないこの疑惑が、まったくあり得ない話のように語られた。