文春オンライン

「派閥の一本化」が“消えた”総裁選…政治評論家が見る候補者「リアルな評価」と自民党「派閥長老軍団」が選挙前に考えていること

2021/09/21
note

 安倍前総理が高市さんを支持すると表明したのは、自民党の保守の岩盤支持層がメルトダウンしないようにという狙いからです。自分の後継の菅総理を支持せざるを得なかったが、出馬しないことになりました。かつて禅譲を考えていた岸田さんとの関係は、何が何でも岸田さんではなく、他にいなければという程度の支持だったと思います。ですから高市さんが決選投票に残れないとなれば、岸田支持に回るはずです。

 河野さんの今回の出馬は早いのではないかと言いましたが、麻生さんも同じ気持ちでいるはずです。河野さんが総裁になれば派閥が代替わりしてしまうのを嫌がっている、という見方もありますが、81歳の麻生さんはすでに息子さんが後継者に決まっています。それよりは、目をかけてきた河野さんに何とかうまい具合に大願成就をさせてやりたい、という親心のほうが強いでしょう。

“初当選の菅義偉”が語った「この中で総理大臣が出るとすれば、河野しかない」

安倍晋三前首相 ©文藝春秋

 もともと河野さんは、菅総理がひいきにしてきた政治家です。同じ神奈川で、同じ当選8回。初当選の同期議員が集まって会合したとき、「この中から総理大臣が出るとすれば、河野しかないと思い定めた」そうです。安倍前総理に外相、防衛相への起用を進言したのも菅さんです。

ADVERTISEMENT

 去年は本人が担がれたから河野さんの出番はなかったわけですが、自分が身を引くことになって河野さんを応援するのは、その当時からの思いがあるからです。

石破茂氏の態度表明が遅くなったことが表す“雲行き”

 政権を支えてきた二階さんにとって一番よかったのは、もちろん菅総理の続投です。次は、関係が近いわけではないけれども、しばしば相談に来ていた石破さん。その次に、幹事長代行として自分を支えてくれた野田聖子さんが、頭にあったでしょう。

 菅総理が再選に臨んでいれば、二階さんは自分の派閥の中にいろいろな意見があっても、最後はまとめ上げたと思います。菅総理がドロップアウトしたことで、誰かを積極的に担ごうという意欲は薄れたとは思いますが、何しろ先を見通し「勝ち馬」をつくる能力では党内で二階さんの右に出る人はいません。決選投票になれば二階さんがどう動くか目が離せません。

 石破さんは、二階さんの協力を得て20人の推薦人を集めることが可能だったはずです。出馬を断念した最大の理由は、出ても勝てないということ。自分が出れば党員票が分散され、仮に2位につけたとしても、アンチ石破が多い国会議員中心の決選投票では勝てません。「今度負けたら、もう自分は終わりだ。それならば河野に恩を売ってポストをもらい、存在感を示したほうがいい」という判断に至ったのでしょう。河野さんから協力してくれと言ってきたのは、渡りに船だったことでしょう。不出馬の表明が遅くなったのは、アプローチを待っていたのかもしれません。

石破茂氏 ©JMPA

 河野さんを政権に押し上げれば、再び幹事長になれる可能性があります。二階さんがあれだけ権勢を振るったように、小選挙区制の下で幹事長というのは大きな実権を握るのです。その先に石破政権が待っているかどうかはわかりませんが、いまの裏長屋の素浪人みたいな生活よりはずっと影響力を行使できます。

 現時点では、順当なら河野さんか岸田さんでしょうが、高市さんが「台風の目」的存在になっている中、先の先まで読んで動くのが政界の論理。単純にはいきません。

構成=石井謙一郎

「派閥の一本化」が“消えた”総裁選…政治評論家が見る候補者「リアルな評価」と自民党「派閥長老軍団」が選挙前に考えていること

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー