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コロナ禍がもたらした“飢餓レベルの貧困”…それでも生活保護を申請しない人々のリアルな“苦悩”とは

『貧困パンデミック 寝ている『公助』を叩き起こす』より #2

2021/10/02
note

 生活保護の利用歴のある人からは、この扶養照会について以下のような声が寄せられた。福祉事務所が親族に連絡をとった結果、親族との関係が悪化したと話していた声も複数あった。

・家族から縁を切られるのではと思った。

・親子の関係切れてる人ほとんど。放っておいてほしい。

・知られたくない。田舎だから親戚にも知られてしまう。

・ 困ります。一回きょうだいが迎えに来て困った。その時もお金を一回置いていっただけ。どうにもならない。

・ 以前利用した際、不仲の親に連絡された。妹には絶縁され、親は「援助する」と答え(申請が)却下された。実家に戻ったら親は面倒など見てくれず、路上生活に。

・はずかしい。やるせない。

・嫌ですよ、そりゃね。両親は亡くなってるが、きょうだいはもう別々なので。

・ 嫌だった。追い返され諦めていた。もう一回申請するか悩んでいるが、扶養照会が嫌。

 現在、利用していない人からも下記のような声が寄せられ、この仕組みが制度利用の阻害要因になっていることが浮き彫りになった。

・(親族に)知られたらつきあいができなくなってしまう。

・今の姿を自分の娘に知られたくない。

・都内にきょうだいが4人もいる。扶養を受けろといわれる。

・親があれば親を捨て、車があれば車を捨てる。保護のイメージ。

・親に心配されたくない、地元に戻ってこいと言われかねない。

・扶養照会があるから利用できないでいる。

扶養照会をしても実際の扶養に結びつく例はほとんどない

 私は、扶養照会は生活保護申請のハードルを上げるだけで、有害無益であると考えている。家族関係が希薄化している現代社会では、照会をしても実際の扶養に結びつく例はほとんどないことがわかっているからだ。

 足立区によると、2019年度の生活保護新規申請件数は2275件だったが、そのうち扶養照174会によって実際の扶養に結びついたのはわずか7件(0.3%)だったという。荒川区に至っては、2018年度、2019年度とも扶養照会によって実際の扶養に結びついた件数はゼロであった。都市部の自治体では、どこも同様の傾向にあると考えられる。

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 自治体によっては、申請者の親族関係を調査するため、専門の職員を雇用しているところも存在する。それでこの実績なのだから、調査にかけた職員の人件費や、問い合わせのための郵便の送料等がほとんど全部、無駄になったことになる。