2020年春以降、生活困難な層が急速に拡大し、貧困の現場でも緊急事態が到来した。新宿を中心に路上生活者や幅広い生活困窮者の相談・支援を行う稲葉剛氏が実際に見聞きした窮状とはどれほどのものなのだろう。

 ここでは「市民の力でセーフティネットのほころびを修繕しよう!」を合い言葉に活動する「一般社団法人つくろい東京ファンド」代表理事を務める稲葉剛氏の著書『貧困パンデミック 寝ている『公助』を叩き起こす』(明石書店)の一部を抜粋。飢餓レベルの貧困にあえぐ人々の実情について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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従来とは異なる層の人たちが炊き出しの列に並ぶ

 この冬、全国各地で続けられている生活困窮者支援の現場で異変が生じている。

 支援を求めて集まる人が増加しているのに加え、従来とは異なる層の人たちが炊き出しの列に並ぶという現象が起こっているのだ。

 この正月、東京・四谷の聖イグナチオ教会のホールを借りて、「年越し大人食堂」という企画が2日間(1月1日と3日)、開催された。

 仕事が途切れ、公的な福祉の窓口も閉まる年末年始は、生活困窮者にとって厳しい時期である。「年越し大人食堂」は、その時期に温かい食事を介して気軽に相談できる場を作ろうという趣旨で、一年前の年末年始に初めて私たちが企画したものである。この時は、普段、ネットカフェに暮らしている若者や路上生活の高齢者など、各回数十人が集まり、料理研究家の枝元なほみさんが作ってくれた美味しい食事をみんなでいただいた。

 それから1年。コロナ禍の影響で貧困が急拡大する中で開催された今回の「年越し大人食堂」には、元旦に270人、3日に318人と、前年の数倍にのぼる人が集まった。

 コロナ対策のため、今回はお弁当の配布という形になったが、枝元さんがボランティアとともに奮闘し、各回300~400食ものお弁当を作ってくれ、全員に食事を提供することができた。

 会場には中高年の男性の姿に混じって、お子さん連れで来た人や若者、外国人の姿も目立っていた。話を聞くと、3人家族の全員が食べ物の確保に苦労をしており、各地の炊き出しをはしごして食料を集めている、という声もあった。

 老若男女が食事を求めて列を作る光景は、飢餓レベルの貧困が広がり、私たちの社会の底が完全に抜けてしまっていることを意味していた。それは、これまで生活困窮者支援を27年間続けてきた私も見たことがない光景だった。

行政窓口の年末年始対応が一部で実現、支援の力に

 お弁当が配布されている会場の隣のホールで開催された生活・労働・医療・法律に関する相談会にも、元旦に45人、3日に72人もの方が相談に訪れた。相談会でも、所持金がすでに尽きている、充分な食事も摂れていない等、深刻な内容の相談が多かった。