女性や若者たちの貧困問題を可視化したコロナ禍。「市民の力でセーフティネットのほころびを修繕しよう!」を合い言葉に活動する「一般社団法人つくろい東京ファンド」代表理事の稲葉剛氏は、生活支援者への支援活動を通じて行うなかで、さまざまな課題を目の当たりにしてきた。
ここでは、同氏の著書『貧困パンデミック 寝ている『公助』を叩き起こす』(明石書店)の一部を抜粋。すべての人に健康で安全な生活が確保されるため必要な政策についての考えを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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2020年2月末以降、国内における新型コロナウイルスの感染が広がり、政府や専門家からは不要不急の外出を控え、自宅で過ごしてほしいという呼びかけが繰り返し行われている。
テレワークの導入や小中高校の一斉休校により、老若男女を問わず、自宅で過ごす時間がこれまでになく延びてきている。
3月19日、政府の専門家会議は「入院治療が必要ない軽症者や無症状の陽性者は、自宅療養とする」ことを提言した。ここでも「自宅」がキーワードになっている。
温存されてきた「自宅」をめぐる格差
だが、一言で「自宅」と言っても、その住環境には大きな格差が存在する。長年、住まいの確保は自己責任と考えられてきた日本社会では、適切な住まいを保障することが住民の福祉の向上につながるという「居住福祉」の観点が弱く、「自宅」をめぐる格差は温存されてきた。
特に都市部に暮らす低所得者層は、十分な広さの住宅を確保できていないことが多く、中には安定した住まいそのものを失っている人も少なくない。
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための対策やコロナ問題に端を発する経済問題、教育問題への対策では、こうした「自宅格差」を踏まえる必要があると私は考えている。
具体的には以下の点について考えていきたい。
一、「自宅」の住環境によって家庭内での感染リスクが高まる危険性がある
二、「自宅」の住環境や通信環境によって子どもの学力格差が拡大するおそれがある
三、経済危機の影響で生活困窮者が「自宅」を失わないための支援策が必要である
四、 経済危機の影響で「自宅」を失った人に対して、感染リスクを考慮した支援策を提供する必要がある
以下に一つずつ見ていこう。
一、「自宅」の住環境によって家庭内での感染リスクが高まる危険性がある
厚生労働省は家庭内に感染が疑われる人がいるときの注意事項として、部屋を分けること、世話をする人を限定すること、マスクを付けること、定期的に換気すること等、8つのポイントを公表している。
しかし、民間賃貸住宅で暮らす低所得者の場合、部屋を分けること自体が難しい場合が多い。
例えば、東京都内で二人暮らしをしている生活保護世帯に認められる家賃の上限額は、かつては6万9800円であったが、2015年の住宅扶助基準引き下げにより現在は6万4000円となっている。
都内でも地域によって状況は異なるが、この金額ではワンルームしか借りられない地域も多い。とても家庭内感染を抑えることは不可能な住環境である。
専門家会議も家庭内の感染リスクについては承知をしており、軽症者や無症状の陽性者の「自宅療養」を勧めつつも、家庭内の感染リスクが高い場合には「症状が軽い陽性者等が宿泊施設等での療養を行うこと」や「同居家族が受診した上で一時的に別の場所に滞在すること」といった取り組みが必要だとしている。
住宅事情を考えると、特に大都市部で、「自宅」以外で療養できる場を作ることが求められている。
大阪府はすでに患者を振り分けた上で、軽症者向けには稼働していない病棟やホテルを借り上げて療養スペースとして活用するという方針を発表している。
東京や横浜などの大都市の自治体もホテル等を活用し、「自宅」だけに頼らない仕
組みを作る必要があるだろう。