民間賃貸住宅の空き家・空き室の活用を
首都圏の福祉事務所では、住まいのない生活困窮者が生活保護を申請した際、民間の宿泊施設を紹介するのが常であるが、こうした施設の中には劣悪な環境により「貧困ビジネス」と批判されている施設も少なくない。
厚生労働省は「貧困ビジネス」批判を踏まえ、2020年度より民間の宿泊施設を強化する方針だが、居室の個室化については3年間の猶予期間が設けられることになっている。
こうした状況に対して、ホームレス支援に関わる医師からも、感染症予防の観点から見ると「野宿の方がはるかにマシ」であり、複数人部屋の施設は感染のクラスターになる危険性が高い、という指摘がなされている。
厚労省は3月10日の事務連絡でビジネスホテルやカプセルホテルの活用についても各自治体が事前に情報収集することを求めていたが、ロンドンのように行政が率先して個室の宿泊場所を多数確保しておく必要があるだろう。
(※追記)2020年4月3日、東京都内のホームレス支援団体は、住まいを失った生活困窮者が宿泊できるビジネスホテルの確保を東京都に要望した。その後、私たちの要望に応じる形で、都によるビジネスホテル提供が始まった。
私が提案したいのは、民間賃貸住宅の空き家・空き室の活用である。近年、災害時には、こうした空き家・空き室を行政が借り上げて、「みなし仮設住宅」として被災者支援に活用するという例が増えてきている。
今回のコロナショックも、一種の災害とみなし、行政は同様の措置を採るべきである。
感染症対策として、自宅から外に出ないことが推奨される中、「自宅格差」の問題はかつてないほど深刻なものになりつつある。
リーマンショック時には、住まいを失った生活困窮者を支えるため、日比谷公園で「年越し派遣村」の取り組みが行われたが、今回は同様の事態が生じたとしても、感染症リスクを考慮すると、人が多く集まる形での相談会の実施は難しい。
私たち民間の支援者も創意工夫をしていきたいと考えているが、ぜひ行政には事態が悪化するよりも前に、感染拡大防止と貧困拡大防止を両立できる対策を先手先手で実行していただきたいと願っている。
本書『貧困パンデミック』からの掲載箇所は、朝日新聞社の言論サイト「論座」の長期連載企画『貧困の現場から』を基に編集されたものである
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