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「ステイホーム」できない人はどこへ行けばいいのか? 自宅療養の推進で明らかになった“自宅格差”の実態

『貧困パンデミック 寝ている『公助』を叩き起こす』より #1

2021/10/02
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 厚労省が貧困の急速な拡大を先取りする形で、このような事務連絡を出したこと自体は評価したいが、私は現行の支援策では事態に対応できず、制度改正が必要だと考えている。

求められる住居確保給付金の要件緩和

 厚労省が「自宅を失わないための支援」の柱として考えているのは、生活困窮者自立支援法に基づく「住居確保給付金」制度である。

 この制度は、リーマンショックを踏まえて2009年に導入された「住宅手当」制度を恒久化したものである。

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 リーマンショック時に吹き荒れた「派遣切り」により、多数の人が仕事と住まいを同時に失ったことを踏まえ、「住居確保給付金」制度では65歳未満の「離職者」がハローワークに通って再就職支援を受けることを条件に、一定期間(原則3ヶ月間、最大9ヶ月間)、民間賃貸住宅の家賃分を補助するという仕組みになっている。

 しかし、2009年以降の社会の変化を踏まえると、「離職者限定」という要件は非現実的と言わざるをえない。

 全校休校の影響で仕事を休まざるをえなかった労働者への救済策でも、雇用されている労働者とフリーランスとの格差が問題になったが、政府自体が近年、「多様な働き方」、「雇用関係によらない働き方」を推進してきたという経緯があるにもかかわらず、セーフティネットからはフリーランスや自営業者を排除し続けるというのは無責任極まりない。

 「65歳未満」という要件についても同様である。

 3月19日、70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする高年齢者雇用安定法等の改正案が衆議院を通過したが、野党や労働組合からは高齢のフリーランスや個人事業主が増え、不安定な働き方を助長するという批判が噴出している。

 近年、年金収入だけでは生活を維持できない「下流老人」問題が深刻化しているが、今回の法改正には、低所得の高齢者に働いてもらうことで貧困を緩和するという意図も盛り込まれているだろう。

 以上のことを踏まえると、「住居確保給付金」の要件を大幅に緩和し、コロナショックの影響で収入が減少して、家賃の支払いが困難になった人全般に対象者を拡大するべきである。働き方や年齢によって選別をすべきではない。

 なお、この要件緩和に法改正は不要であり、厚生労働省の省令を変えるだけで対応可能である。

 また、経済危機の影響で家賃を滞納してしまった人を賃貸住宅から追い出さないよう、政府が家主に要請するという方法も検討されるべきだ。家主が損失を被った場合は補填をする仕組みも併せて作れば、ホームレス化する人を減らすことができるだろう。

(※追記)2020年4月より、住居確保給付金の年齢要件は撤廃された。また、フリーランスや自営業で働く人も収入が減少した場合は利用できるという制度改正も行われた。