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「このままでは夫に殺される…」ステイホームできない女性たちの“知られざる苦悩”

コロナ禍で女性に対する可視化されにくい暴力が拡大している

2021/09/16

genre : ライフ, 読書, 社会

 その日、3人の子をもつ美帆さん(41歳・仮名)は、不安な一夜を過ごしました。夫から「コロナ禍が拡大したので在宅勤務が決まった」と告げられたのです。以前から気に入らないことがあると事あるごとに暴力を振るってきた夫。共働きでともに在宅時間が短いこともあり、何とかやり過ごしてきたけれど、四六時中、顔を突き合わせることになったらどうなるのか。その予感は的中。朝から苛立っていた夫から激しい暴力を受けたのです。

「もう、ここでは生きていけない」

「鏡を見ると、はっきりと顔が腫れていました。腫れた顔を自分で確かめるうちに精神的なショックが広がって、今日はもう会社に行くことはできないと、休むことを決めました」

 夫はいつも通り出社。美帆さんは、夫が部屋から出ていくのを見届けて、発作的にこう思ったと言います。

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「もう、ここでは生きていけない」

 荷物をまとめ、未就学児を含む3人の子どもと家を出た美帆さん。足は自然と自治体の女性支援窓口に向かっていました。

 夫の家庭内暴力が始まったのは、5年ほど前にさかのぼります。

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「首を絞められ、殴られ、蹴られる。これがいつものパターンでした。私は暴力をふるわれながら、『あともうちょっと耐えれば終わるんだ、それまで我慢すればいいんだ』とやり過ごすことが習慣になっていました。だんだん感覚が麻痺していったんです」

 そうすることでしか、自分を、そして子どもたちを守ることができないと考えていたからでしょう。

暴力に怯える「ステイホーム」

 しかし、コロナ禍によって美帆さんを取り巻く状況は大きく変化します。感染拡大を防ぐために「ステイホーム」が合言葉となり、家にいることが多くなった子どもたちに加え、美帆さんも夫もまた在宅勤務体制となり、家族が顔を突き合わせる時間がこれまでにないほど長くなったのです。

「夫は出張が多く、帰りも遅い仕事でした。ですから何とかなっていた部分もありました。『ワンオペ育児で大変でしょう』と言われるけれど、ワンオペのほうがどれほど良かったかしれません」

 世の中にはステイホームによって、幸福度が上がったという家族がある一方、美帆さんと子どもたちのように、安心、安全が確保されず、暴力に怯えながら暮らす家族もあるのです。