新型コロナウイルス感染症が流行して以降、「東京から人々の大脱出が始まった」と言われた。
インターネットを介したリモートワークが普及し、どこでも仕事ができるなら、子供にいい環境や人間らしい暮らしを求めて「地方」へ移住する人が増えた、とされたのだ。東京はあまりに人が多すぎてウイルスが蔓延(まんえん)し、「こんなところに住んでいられないと考える人が増えたのも原因」とする論評もあった。確かに一定数、そうした人々はいたはずだ。しかし、本当に大脱出と言えるような状態なのか。
データを見ると、むしろ逆になっている。地方から東京への人口集中は、ウイルスが広まった昨年もなお進行し、今年になってからも止まっていない。もちろん、増加幅は小さくなっており、人口流出の多い月もあった。異変が起きているのは間違いない。これからどうなるかの見通しも不透明だ。しかし、少なくともこれまでのところ、東京への人口集中は続いているのである。
「新しい危機」で社会が混乱している時、私達に必要なのは「こうなったら面白い」「こうなるはずだ」という思い込みに合わせて現実を歪めて見るのではなく、事実を冷静に見極めてこれからを考えることではなかろうか。そうした意味で、東京の人口に何が起きたのか、改めて振り返りたい。(全3回の1回目/#2、#3へ続く)
「コロナ禍は移住に結びついていません」
「新規の移住者はむしろ減りました。都道府県境を越えた移動の自粛が求められているので、遊びがてら見に来てくださいと誘うわけにいきません。オンラインの移住相談も始めていますが、やっぱり足を運んでもらわないと、どんなところか分からない。そもそもオンラインで移住を決めるようなやり方では、きちんとした定住にはつながらないでしょう。悪いことに新型コロナの流行後、東京との行き来は不便になりました。移動自粛で飛行機の乗客数が少なくなって減便され、日帰り出張が不可能になったのです。このような状態では、リモートワークが普及したからといって、移住者が増えるとは考えられません」。中国地方の都市で移住政策を担当している市職員がため息をつく。
移住希望者には何度も来てもらい、いろんな人に会って本当に住みたい土地かどうか一緒に考える誘致策を展開してきた地区でも、「ウイルス流行後は移住希望者と親しく話す機会が減った」と聞いた。
菅義偉首相の故郷、秋田県湯沢市を訪れた時には、「コロナ禍は移住に結びついていません」と市役所できっぱり言われた。秋田空港から高速道路を経由しても1時間ほど掛かる距離の遠さに加え、冬には市中心部でさえ1メートルも積雪する豪雪地帯だ。「冬は雪との闘いです。朝はまず車庫の前を除雪してからでないと車を出せません。『移住するなら覚悟して来てください』と話しています」と職員達は語っていた。
「東京脱出」がささやかれ始めた理由
他にも多くの「地方」で似たような声を耳にした。
なのになぜ、「リモートワークの普及で地方へ移住する人が増えた」などと言われるようになったのか。
東京の人口が減少したからである。これが「東京脱出」を頭に浮かべさせてしまった一因だろう。