世界の各都市でDV被害の増加
私は『ルポ コロナ禍で追いつめられる女性たち』(光文社新書)で、シングルマザーを襲う困難、女性非正規中心のエッセンシャルワーカーの受難、男性と女性の待遇格差を如実に現した「テレワーク格差」の実態などを取材しました。中でも強い衝撃を受けたのが美帆さんはじめ、「ステイホームできない女性たち」からうかがった話の数々でした。
DV被害の増加など女性に対する困難が集中しているのは、日本に限ったことではありません。ロックダウンした世界の各都市で電話相談窓口やシェルターへ助けを求める女性が増加しています。
これを受けて2020年4月、国連のグテーレス事務総長は「シャドーパンデミック」という言葉で、コロナ禍における女性の困難に警鐘を鳴らし、女性と女児を守るよう、各国政府へ対応を求めました。「シャドーパンデミック」。つまり、女性に対する可視化されにくい暴力が拡大している、という意味です。
窓口に寄せられた相談件数は氷山の一角
日本政府も配偶者暴力相談支援センターに加え、24時間対応の相談電話の設置、SNS、メール相談を受け付ける「DV相談+(プラス)」事業を開始し、女性や子どもの保護のために、相談窓口を閉じないことなどの支援強化を打ち出しました。
これらの窓口に寄せられた相談件数は、2020年4月以降、前年の1.5倍ほどに増加しています。しかし、ステイホームが続く中、暴力を振るう人の目の前で相談ダイヤルに連絡することは不可能です。多くの相談窓口では、感染が一段落した時点での相談が最も多くなると言います。「相談したくてもできない人」「逃げたくても逃げられない人」は実際にはもっと多く、この数字は氷山の一角であることが考えられるでしょう。
美帆さんの場合、子どもの定期健診で相談したことをきっかけに自治体の子ども家庭支援センターなどにつながり、暴力をふるう夫から離れることを勧められていました。しかし、「夫から逃げよう」と思う反面、3人の子どもを抱える身としては、それは簡単なことではありません。美帆さん自身「いつもビクビクしながら暮らしていたけれど、大きな決断はできないままだった」と言います。