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「最善の医療を提供できないかもしれない」

 連日4000人もの陽性者が確認され、療養者は3.9万人と積み上がった(8月29日現在)。このうち入院できたのはわずか1割の約4200人、宿泊療養に入れた人は約2000人止まりだ。対する自宅療養者は2万人、入院先が決まらない人が1万人で合計3万人、全療養者の85%が自宅に残されていることになる。3万人のうち誰が悪くなるのかがわからない――4月に大阪で起きた危機と相似形をなすが、大阪のピークの2倍を超えた。

 都モニタリング会議(同26日)の分析によれば新規感染者の約0.6%が重症化し、人工呼吸器かECMO(体外式膜型人工肺)を装着することになる。感染者4000人が続けば、毎日24人の重症患者が生まれる計算だ。三浦が再び語る。

「つらいのは、異変を感じて踏み込んだ部屋で意識が朦朧としている患者と向き合う時です。初対面で『助けてあげたいけれど、最善の医療を提供できないかもしれない』と告げなければいけない。本来なら人工呼吸器が必要なのに、対応できる病院を探せそうにない。それでも、どこかの病院に入れれば酸素や薬の投与は受けられる。『それでいい?』と働き盛りの人に伝えるのは苦しい」

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尾身茂氏

東京五輪開会式1週間前の“異変”

 異変を感じとったのは、7月17日だったと三浦は述懐する。東京五輪の開会式1週間前である。

「その日、月に2度回ってくる都の『調整本部』の当番でした」

 西新宿の都庁にある入院調整本部は、保健所や病院間での入院予約の輻輳を避けるために設けられた。各保健所から集約された情報をもとに、東京DMATの指導医が輪番でトリアージを担う。

 その日は様子が違ったという。

「数が一気に増えていて、転院依頼が病院だけでなくホテルからも届いていた。その全ての調整はとても無理で、まずは重症と中等症の患者を優先して、軽症を診る病院にも中等症の患者をお願いした」

 7月17日の調整件数は120件。すでに第4波のピークに並び、次に都庁に赴いた8月15日には6倍の708件にまで膨れ上がった。

 職場の曳舟病院でも、その頃から18床のうち13、14床が埋まり放しの状態が続く。

「送る先がないから、重い患者がきた時のために4床は空けておく。どこも似たようなものですよ。今まで頑張ってクラスターを出してはいないとはいえ、この(駅と一体の)場所ですからね。増改築はできないし、これ以上の無理はできない」

 ノンフィクション作家・広野真嗣氏による「小池百合子が東京を壊す」は、「文藝春秋」2021年10月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

文藝春秋

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