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責任者は2人いる

 振り返れば、3度目の緊急事態宣言を6月に解除した直後から広がり始めた第5波は、五輪大会期間(7月23日~8月8日)に過去最多の感染者数を連日記録し、連休やお盆を通じて全国に沁み出した。

「火元」の東京都では、8月7日に入院患者数が第3波時の最多を更新したが、確保病床の6割程度で逼迫してしまい、入院できず自宅で療養する者、その中で病状が急変する者が続出した。8月の1か月間のコロナの死者(報告数)は東京都で173人。そのうち12人は、自宅での死亡だ。詳しくは後述するが、開会式の翌7月24日には、予兆があった。にもかかわらず、実際に医療体制拡充に手が打たれるのは、しびれを切らした新型コロナウイルス感染症対策分科会会長の尾身茂が、お盆前の8月12日に出した提言から10日を経過した後だ。

 責任者は2人いる。1人は首相の菅義偉、もう1人は東京都知事の小池百合子だ。菅は緊急事態宣言を打ち、対象地域を拡大したが、ワクチン効果への楽観を度々口にし、それが国民には「無策」と映じた。支持率は下落し、総裁再選の道を狭めた。

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小池百合子都知事

 これに対し小池はどうか。7月には海外メディアに「東京大会はCOVID-19との戦いで金メダルを取りたい」とはしゃいで見せたが、深刻化した8月下旬になると入退庁時の記者たちの質問をしばしば無視するようになり、会見ではデルタ株の脅威と法令の限界を強調した。そして若者向けワクチン接種の混乱が批判されると「工夫してほしいですね、現場で」とうそぶいてみせた。

 菅おろしの政局で見逃されやすいのは、感染対策の主役は都道府県であるという点だ。緊急事態を宣言し、措置を延長するのは菅。これに対して、新型コロナ特措法や感染症法で医療体制を整える一義的な主体とされるのは、都道府県である。つまり、東京の病床確保計画をつくる責任は都知事にある――。

©文藝春秋

自覚症状がないケースも

 東京曳舟病院の三浦に、デルタ株の恐ろしさについて訊ねると、生活保護の申請に訪れた役所で具合が悪くなった60代男性の例を挙げた。

「熱中症を疑われて運ばれてきたのが午後4時ごろ。当初の血中酸素飽和度は正常だった。ところが酸素を投与しているのに、入室2時間後の6時ごろには、中等症Ⅱとされる92、93%まで低下していて、慌てて人工呼吸器を装着したんです」

 基礎疾患のない人、あるいは若い世代も例外ではない。三浦はホテル療養の支援に入った時の話をした。

「発症4日目でホテル療養していた20代の人は、血中酸素飽和度を測ったら88%にまで落ちていて、すぐ入院してもらいました。『言われてみれば苦しい』と答えるのですが、自覚症状はなかった。喘息も喫煙歴もないのに」