「(コロナ患者の受け入れを)やらない病院は全くやらない、やる病院ばかり(負担を)増やされて――と現場から言われるのはつらいです」
ベテランの救急医である東京曳舟病院副院長の三浦邦久がインタビュー中、一つだけこぼした愚痴だ。
熱い男である。発熱外来や入院、ワクチン接種といった病院のコロナ対応だけでなく、宿泊療養の支援に、在宅医の応援に、と見返りのない仕事も地域のためなら引き受ける。保健所の信頼も厚く、取材中も相談の電話がしょっちゅう入った。
「医療が逼迫する時期の東京五輪は人流が増えるから中止してほしいと思っていた」と振り返るが、開催が決まると医務スタッフのボランティアにも出向き、仲間を連れ、始発電車で競技会場に足を運んだ。理由を訊けば、「熱中症患者を搬送することになれば地域医療をさらに逼迫させる。日頃から慣れた自分たちが現場で“初期消火”した方が被害は小さくてすむ」と答えた。
終わりの見えないサイクル
下町の災害医療の拠点として長年、存在感を示してきた東京曳舟病院は隅田川と荒川に挟まれた「江東デルタ」のほぼ真ん中、東武伊勢崎線曳舟駅に直結したビルが病棟だ。
コロナ禍では第1波から発熱外来を構え、軽症・中等症患者の受け入れを始めた。その後、感染が拡大すると、行政の求めに応じて18床まで増やした。現在は、時に重症患者の治療にもあたる。
1人回復して退院すると、即座に次の入院が決まる。終わりの見えないサイクルを、7人の医師と約30人の看護師が休み返上で切り回す。
集中治療室に備える人工呼吸器をコロナ病床に持ち込むことはできる。だが、その時は、脳卒中や交通事故といった命にかかわる救急患者の受け入れを絞らざるをえない。
三浦は「命の線引きになるんです。重症患者を見るなら、ほかの救急患者を絞ることに」と説明した。
都内には入院患者を受け入れている病院が400ある一方、受け入れていない病院が250、診療所も1万3500ある。不均衡を放置したまま、都の第5波対応は続けられた。なぜ総力を傾ける体制ができないか。空床がない、ゾーニングができないという言い分はさておき、非常事態を前に医療界と向き合い、1人でも多く動かそうと汗をかくのが政治家の職務ではなかったか。