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竹宮ゆゆこ×渡會将士 小説と音楽。僕らを結びつけた偶然の連続

竹宮ゆゆこ著『応えろ生きてる星』に渡會将士が帯文を書いた理由

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作家vsミュージシャン、掛け持ちが許されるのはどちらか

竹宮 今回はカバーイラストをかとうれいさんにお願いしたんですが、このラフをいただいたときもめっちゃ盛り上がったんです。

渡會 おお、イラストの制作過程を見られるのはレアですね! すごい。

かとうれいさんのイラストのラフ。制作の過程が見える。©杉山拓也/文藝春秋

竹宮 でも、色がついてきたときの感動はさらにすごかったです。カバーはいつも「お任せします」と言いつつ、イメージをお伝えしています。今回は、80年代とか、90年代とか、華やかであったあの頃の東京、ちょっと古くて今新しい、あの感じがなんとなくほしくて。

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渡會 バブルのときのキラキラ感。いいですね。

竹宮 渡會さんご自身も絵を描かれていますよね。FoZZtoneのジャケットもご自身で描かれたり。渡會さんの過去のインタビューで衝撃だったのが、漫画家になろうと思っていたことです。

渡會 最近は全然ですけど。小中学校のときは漫画家になるものと思って生きてましたね。中3くらいで方向転換して、バンドやろうとなったんですけど。

竹宮 渡會さんの中の表現の源みたいなものがすごく高い濃度であるんだろうなと思って。そして、なぜ神様はこの人にこんなたくさんの出口を与えたんだろうと。

渡會 アハハ。そんなんじゃないですよ、全然。思ってることを形に落とし込みたいだけなんだと思うんです。意外と絵の上手なミュージシャン多いですよ。作家の真似事してる人もいっぱいいますし。ある方の本で読んだんですけど、「作家ほど寛容な種族はいない」と。女優が本出しました、みたいなことをしても怒らない。文句はいうけど、別に目くじらを立てたりしない。でも作家が歌ったら、ミュージシャンは「お前何こっち来てるんだ」ということもあるんじゃないかと。

竹宮 小説を書くのは身体性に拠らなくて、人間ができる行為のうちではわりと普通のことかなと思うんです。でも、歌を上手に歌うとか、楽器とかダンス、絵を描くってすごく特殊なことな気がして。その選ばれた感というか、その身体だからこそ出来るのだ、という感じは特別なことだと思えます。

©杉山拓也/文藝春秋

渡會 どこから習ったかという経緯と、上手に吸収できたか、と、筋トレを続けられたか、は技術に属することなんですよ。もちろん才能で、というパターンの人もいますけど、絵にしても、音楽にしても、専門学校とかで技術として教えられる。結果、絵を描くにしても、歌うにしても、1作目はなんとか行けると思うんです。それを続けることが難しい。竹宮さんがさっき空っぽになるまで書くとおっしゃったけれど、普通の人はそこで終わると思うんですよね。書ききった! というところで。でも、ある意味、我々はジャンキー的なところがありますよね。

竹宮 そう! 中毒だなって思います。

渡會 中毒で作り続けている感じですよね。レコーディングのときとか、ほんとふざけんなよと思うときもあるんですけど。

竹宮 その時々は思うことがあってもやってることはすごく気持ちいい。小説書いてて、「楽しい! 気持ちいい! 100%生きられてる」って思うんですよ。パソコンの前から動かずにいて、傍から見たら超悲しい生き物なんですけど。

渡會 そのとき脳の中では動いてるわけですよね。

©杉山拓也/文藝春秋

竹宮 ライブで歌ってるときの渡會さんぐらいのすごい気持ちよさそうな感じ、が心の中にはあるんですよ。ただこっちは、読者の方が読んでどう反応しているか、っていう姿を目にすることはできないんですけど。

渡會 それ、不安になりませんか。

竹宮 案外ならないし、すごく変態度が高いことだなと思います。

渡會 え、どういうことですか?

竹宮 深く突き詰めていくと、たったひとりで誰とも関係ない生活をしていても小説を書いちゃうだろうなという気持ち悪さが自分の中にあるんです。誰にも言われなくても私は書いてるなって。音楽は聞いてくれる人がいなかったら、どうなんでしょう。ひとりで歌っていても気持ち良いものなんでしょうか。

渡會 アマチュアという意味ではそういう人はいっぱいいるんですよ。とりあえず歌えれば楽しいという。プロとして音楽で食べていくとなると、お客さんがいて、ある程度需要と供給というか、僕のライブに何を聞きに来ているのか、何を求めているのか、自分で確立していかなければいけない。けっこうシビアにお客さんの反応は大事にしていますし、まだ自分のことを知らない、これから出会う人はこれを聞いたらどう思うんだろうということは考えます。考えすぎるとよくないんですけど、常々、自分のエゴとホスピタリティのギリギリのところでやってますね。胃が痛いです。