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エモい大人になったもんだな

竹宮 夢のまっただなかにいながら、満ちたりていながら、でも終われずにいる、っていう自分に対して『After Fork in the Road』を聞いてすごく肯定的なメッセージをいただけているんですよ。すっごい前向きだし、明るいし、でもちゃんと傷ついていたりとか、弱音はいちゃうとか、何か抱えておられる重力をしっかり感じられつつも、どの曲も最後は明るいほうへ向かっていこうぜというメッセージをもらって次の曲へ行けるんですよ。

©杉山拓也/文藝春秋

渡會 わー、嬉しいです。

竹宮 それでいて、ただ「わーい」って馬鹿丸出しに明るいわけではなくて、ちゃんと不甲斐ないし。ちゃんとウェットだし渡會さんのおっしゃる、「エモい大人になったもんだな」っていうのはホントそうだなと。

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渡會 アハハ。世の中にある曲が、ウェットなのかドライなのか、どちらかに寄り過ぎてる気がしてるんです。もっとみんな中途半端なはずなんだけれども、なぜこうもカラっと割り切るのか、もしくは暗くジメッとしすぎるのか。そのへんのバランス感を嘘偽りなく、フラットに歌にできたらと思うんです。

竹宮 渡會さんの歌には、ちゃんと等身大の人間の何十キロかの重さを感じるんです。素敵とか、楽しいとかの裏側に、人間がちゃんと生きてるのを感じます。

渡會 そこに人がいたな、っていう感じあるじゃないですか。ソファが凹んでたりとか、夏場とか電車で冷房きいてるなか座ったら、そこだけすごく暖かいみたいな(笑)。絶対誰か座ってた、あの感じって嫌だけど、文章としての表現はいいなと思うんですよ。何かにとっておこうと。

竹宮 体に感じる誰かの生々しさっていいですよね。

渡會 いいですよね。吊革つかまったらぬるっとしてるのも、ここに生きてる誰かがいたと感じられる。サウンドでも、文章でもなく、空気感。そういうものってとても、大事な気がしています。

竹宮 編集さんにご紹介いただくまで、渡會さんを知らずにいたのも、『応えろ生きてる星』を書き上げたあとに、『After Fork in the Road』を聞けたのも、今だからこそ、奇跡に思える。すごいタイミングで出会うべくして、このタイミングで会うために知らずにいたのかなと思ったんですよ。この小説の中でも、人生の分岐がいろいろあって、そのままでも生きていけるけど、無様にカッコ悪くあがく。私はそういうカッコ悪さとか、あがいちゃってるところとか、必死になってる生き方を肯定したいんですよ。そういう人間の生き方が好きだし、書いていきたいんですよね。

渡會 冒頭のバーの場面でも主人公が粋がってる、滑稽さがあるじゃないですか。その入りがドッキリしましたね。これ、どっちの体で読んだらいいんだろうと。

竹宮 そこは愛でる体で読んでいただけたら。

渡會 なるほど。答え合わせできてよかったです。いろいろ腑に落ちました。カッコ悪いやつと思ってもう1周読むとさらにいいですね。

竹宮 あのバーは、なりたくてたまらない、でもなりきれてないちゃんとした大人の世界なんですよね。完全性がないまま、時間だけは過ぎ、体だけは成長し。でも過去の、「あー、どうしよう」って泣いてるままの自分をほったらかして、見ないまま、蓋をしてしまっている自分、そのみっともなさも、どうやって生きていくか、迷っているところも余さず書いて行きたいです。

憧れの存在として追いかけていく

渡會 推薦文で「ソフトボイルド」ってつけてよかったです。やりたいことはハードボイルド風なんだけど、頭の中で巡らせてることはとても、ヤワい茹で方だなという感じで。

竹宮 そうなってしまうのって、大人になろうとしているからで、生きていこうとしているから、そのギャップによるじゃないですか。

渡會 そう思ったら、もっと彼を愛でながら読める気がしますね。

竹宮 作中人物がちゃんと自分を愛せるようになっていってほしい。自分を愛することは意外と難しい。

渡會 そうですね。

竹宮 渡會さんは、私が表現したかったことを表現されている先達として、憧れの存在で、この人が表現していくものをこれからも追いかけていかなくちゃと思います渡會さんの表現するものから、すごくたくさんのものをもらって、次のものを書いていきたいです。

渡會 嬉しいです。ありがとうございます!

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竹宮ゆゆこ(たけみや・ゆゆこ)/1978年、東京都生まれ。2004年、「うさぎホームシック」でデビュー。著書に『わたしたちの田村くん』シリーズ(全2巻)、『とらドラ!』シリーズ(全13巻)、『ゴールデンタイム』シリーズ(全11巻)、『知らない映画のサントラを聴く』、『砕け散るところを見せてあげる』、『あしたはひとりにしてくれ』、『おまえのすべてが燃え上がる』がある。『とらドラ!』『ゴールデンタイム』はアニメ化、コミック化され、広く人気を得ている。最新刊は『応えろ生きてる星』。

渡會将士(わたらい・まさし)/1981年、埼玉県生まれ。2001年、「FoZZtone」を結成。07年メジャーデビュー、15年活動休止。12年初ソロ作品「夕立ベッドイン」を発表。ソロ作品に『I’m in Mars』『マスターオブライフ』など。楽曲提供に「ベイビーレイズJAPAN」の10thシングル「Pretty Little Baby」。15年から「THE YELLOW MONKEY」のギタリスト菊地英昭氏のプロジェクト「brainchild’s」でボーカルをつとめる。最新作はソロミニアルバム『After Fork in the Road』。

応えろ生きてる星 (文春文庫)

竹宮 ゆゆこ(著)

文藝春秋
2017年11月9日 発売

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