トランプ大統領が1泊2日の日程を終えて、嵐のように韓国を去っていった。

 韓国が米国の大統領を国賓として迎えたのは、1992年のジョージ・H・W・ブッシュ元大統領以来25年ぶり。それだけに、訪韓前には2泊3日滞在した日本と比べて「短すぎる1泊2日は理解しがたい」(中央日報10月16日)などという声も出ていた。

トランプ大統領の訪韓を歓迎する一団 ©菅野朋子

「赤は北朝鮮に行けーーっ」

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 トランプ大統領の訪韓歓迎派数人が反対派に向かってこう罵声を飛ばすと、

「そっちが韓国を地獄にしようとしている」

 反対派も負けじと声を上げた。

 短い日程もなんのその、トランプ大統領の訪韓前と滞在期間中には、ソウル中心部で反トランプ派と親トランプ派が集会を開いた。朴槿恵前大統領の弾劾をめぐる分裂構図の再来となり、代理闘争の様相を呈していた。

 反対派には、40代50代と覚しき女性も目立った。

 40代の主婦が言う。

「戦争は絶対にダメです。トランプ大統領は過激な発言で朝鮮半島の危機を煽っています。これ以上、北朝鮮を刺激するような言葉は慎んでほしい。子供たちのことを考えると、夏ぐらいから心が安まる日はありません……。お願いだから、これ以上、危機を膨らませないでほしい」

 息子が徴兵制で軍隊に入隊しているという50代の主婦は、「これほど戦争を身近に感じたことはない」と訴えた。

「もし、有事となって息子が前線に行かされたら……。そう思うと、いてもたってもいられなくなって……。北朝鮮の核・ミサイル開発は許されないですが、北朝鮮問題を解決できる力のある米国の大統領は暴言をやめて、対話で解決してほしい」

街角にはこんなオブジェも…… ©菅野朋子

「太陽政策が、北朝鮮の核開発を加速させた」と保守派

 一方、トランプ大統領の訪韓歓迎派は、ほとんどが高齢者だった。

 70代の男性は「北朝鮮を叩けるのは今しかない」と真剣な面持ちで語った。

「それを実行できるのは今のトランプ大統領です。進歩派の過去10年間の政権(故・金大中元大統領と故・盧武鉉元大統領)の太陽政策が、北朝鮮の核開発を加速させた。もうこれ以上野放しにはできない」

 たまたま隣にいた60代の女性は、

「朴大統領の弾劾に反対する太極旗集会(保守派による韓国の国旗、太極旗を手にした集会)では、保守には老人しかいないと蔑まれました。これではいけない、若い人の愛国心を育てなければ国が危機に陥ると思い、知恵を出し合いました」

 そう言って、1枚のビラを取り出した。そこには、「目標 大韓民国発展へ寄与する正しい青年指導者300名養成」と書かれてあり、保守派のリーダーを養成する学校を設立するために会員集めをしていると話していた。

 トランプ大統領の訪韓初日にも、歓迎派は「太極旗」と「星条旗」を振りながら、トランプ大統領の乗る車に歓声をあげていたが、それが通り過ぎると、にわかに「朴槿恵大統領釈放」運動に様変わりした。

 あまりの唐突さにあっけにとられて話を聞くと、「韓米同盟強化は朴大統領あってこそ」(70代男性)と熱っぽく語られた。8日のトランプ大統領の国会演説の場でも「韓米同盟強化、罪のない朴槿恵大統領をすぐに釈放しろ!」と書かれた紙を持った国会議員が退場させられるハプニングがあったが、進歩派の50代会社員は「もう支離滅裂。保守派は立て直しに相当な時間がかかるのではないでしょうか」と苦笑していた。