首藤瓜於(しゅどううりお)の『脳男』は二〇〇〇年の江戸川乱歩賞受賞作。乱歩賞随一の奇怪な小説だ。
ある地方都市で起きた連続爆破事件の犯人が割り出されるところで物語ははじまる。警察が犯人のアジトを急襲すると、犯人は謎の男ともみあっている。犯人は逃亡し警察は謎の男のみ逮捕するが、男「鈴木一郎」の言動はどこか奇妙で、精神鑑定を受けさせるため病院に送られる――
以降、鈴木を担当することになった医師が彼は何者なのかを探ってゆく。このへんで、この本は「鈴木一郎」の謎を解く話なのだなとわかってくるのだが、奇怪な要素がちりばめられているせいで物語の先行きが読めない。全身の毛を剃られて無数の眼が描かれたたくさんのネズミとか、創業者の巨大な像の飾られたビルとか、まるで奇妙なオブジェの並ぶ迷宮のようなのである。そこを歩んで行って鈴木の過去が見えてきたところで、物語は病院内での閉鎖空間サスペンスに突入する――
もちろん本書はミステリなので、奇怪な小道具たちの謎はきっちり解かれる。しかし注目すべきは、この『脳男』、実はスーパーヒーロー物語だということなのだ。スーパーマンやバットマンみたいなあれですね。そんな「虚構」を現実の中でどう成立させるか。著者はそれに挑み、見事にやってのけたのである。
スーパーヒーロー《脳男》の物語は、続編『指し手の顔 脳男II』でさらにスケールアップする。こちらも素晴らしい徹夜本なので是非お読みになるとよろしい。するとあなたは、さらに続きが読みたくて仕方なくなるはずである。『脳男II』の刊行からもう九年。そろそろ『脳男III』登場の潮時だと思うのだが。(紺)