「主文 被告人を懲役5年に処する」

東京地裁718号法廷。9月24日午後3時。傍聴席から向かって左側の扉が開くと、まっすぐに前を向いて黒いスーツ姿の女が入ってくる。緊張からか表情は強ばり、鋭い視線でこちらを一瞥する。睨まれているのではないか、そう感じる。

北井小由里被告(24)は殺人と死体遺棄の罪に問われている。

「北井小由里です」証言台の前に立ち、裁判長から名前を尋ねられると初公判の時と同じく、“また”小さい声で名乗る。ほどなくして裁判長が主文を読み上げる。「被告人を懲役5年に処する」その瞬間、北井被告は言葉を発せず、まっすぐ前を見つめ、瞬きをする。呆然としているように見える。

罪となるべき事実

北井被告は、大学に通う傍ら、アルバイトをしていた性風俗店の客との間に子どもを妊娠。出産予定日をおよそ1カ月後に控えた2019年11月3日午後、神戸から就職活動のため航空機で上京。搭乗直前に始まった陣痛が、到着する頃に激しくなったため、そのまま羽田空港のトイレで女の赤ちゃんを出産した。

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赤ちゃんの遺体が見つかった公園(2019年11月 東京・港区)

そして、その場で、トイレットペーパーの塊を赤ちゃんの口に詰め込んだ上、首を絞めて殺害。出産から殺害まで、わずか43分間の犯行だった。その後、遺体を東京・港区の公園に埋めた。

“就活”のため、女児の存在なかったことに

裁判長は実刑判決の理由をこう指摘した。
裁判長:強い殺意に基づく執拗かつ惨たらしい犯行。女児は本来であれば親から喜びをもって迎えられるはずの誕生直後に、その母親により命を絶たれたのであって、哀れというほかない。

判決によると、捜査段階で北井被告は、赤ちゃん殺害の理由をこう説明していた。
北井被告:一番がお金の問題、二番が就職活動に対するブランクとか遅れをとってしまう不安感。

裁判長は「就活への影響を避けるべく、女児の存在をなかったものにするため殺害した」と指摘した

「お金」「就職」・・・こうした供述を認め、裁判長は“身勝手で短絡的な動機”と断じた。
裁判長:出産により生じる就職活動への影響等を避けるべく、自らの将来にとって障害となる女児の存在をなかったものにするために殺害に及んだ。