「パパ、行ってらー」

 これが父親が最愛の娘と交わした最後の会話だった。

 生徒たちの登校時間だった2021年2月12日午前7時50分。学校の昇降口に“ドーンッ!”という低く響く音が鳴り響いた。コンクリートの地面には体操着姿の小さな少女が仰向けに倒れていた。

ADVERTISEMENT

 山形県酒田市に住む当時中学1年生だった石澤準奈(せつな)さん(13)が通っていた酒田市立第一中学校の校舎4階から飛び降り、亡くなった。第一発見者は昇降口に入ろうとしていた準奈さんの同級生だった。倒れた準奈さんを見て「先生を呼んで!」と助けを呼び、校長と教頭が駆け付け、人工呼吸や心臓マッサージを施した。準奈さんは校舎の4階にあった教材室の窓から飛び降り、命を絶ったのだ。教材室の窓際には踏み台に使った椅子が残され、準奈さんが登校時に着ていた制服が丁寧に折りたたまれていた。彼女を絶望に追いやったものはなんだったのだろうか――。(全3回の1回目/#2#3を読む)

※本記事ではご両親の許可を得た上で、準奈さんの実名と写真を掲載しています。編集部も、準奈さんの死の真相解明の一助になることを願い、可能な限り事実に忠実なかたちで伝えるべきだと考え、実名と写真の掲載を決断しました。

13歳で亡くなった石澤準奈さん

◆◆◆

「本当に悔しい。大ケガしてでもせっちゃんを受け止めたい」

 生きていれば、9月4日に14歳の誕生日を迎えるはずだった準奈さん。9月1日、父親は自身のSNSで半年経っても進まない学校の調査に切実な思いを綴っていた。

〈助けてあげたかったよ、せっちゃん。パパ悔しいよ、何のための父親だ。イジメの調査は4月以降一切行われていない、要請してもしない、できないと言っている、何故だ? 前校長が3月まで調査した分は市の教育委員会にあげたそうだ、それで終わりにされてしまっている、何故? 新しい準奈の何かが出てこない限り調査はしないと言われた。何故? イジメは起きていたのに、追い詰められていたのに、じゃないと死を選ぶ選択をしないだろう〉

 取材班は山形県の酒田市へ向かった。憔悴しきった両親が文春オンラインの取材に涙ながらに当日の状況を語った。

「私はいつも朝7時前に仕事に向かうのですが、出がけにせっちゃんに『行ってきます。車に気をつけてね』と、いつも通り声を掛けました。最近は眠たいのか返事をしてくれない時もありましたが、その日は『行ってらー』って返してくれたんです。『ああ、今日は返事をくれたな』と嬉しい気持ちで車のハンドルを握っていたことを覚えています。でも、それが最後の会話になってしまうなんて……。過去に戻れるんだったら、学校について行って、自分が大ケガしてでもせっちゃんを受け止めたいです。本当に悔しいです」(父親)