開幕から抑えの役割を立派にこなし、コイ党の心をつかんで離さない。東京五輪では日本代表の抑えとして2勝3セーブとフル回転して国民の期待にも応えた。これだけ活躍すれば、広島・栗林良吏投手(25)のファンは増え続けていく一方である。

 その中で、栗林を誰よりも長く、温かく見守り続けてきた人がいる。「僕は、祖母のおかげで中学のチームに入ることができたんです」。栗林は、祖母のことを恩人のように感謝している。

栗林良吏

「孫が野球をやっているのですが……」

 中学では、どうしても硬式野球がやりたかった。しかし、仕事の都合で練習の付き添いなどができない両親は反対。涙を流しながら頭を下げても許してもらえなかった。

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 その思いを知って動いてくれたのが祖母だった。どうすれば良吏が思う存分、野球に打ち込めるだろうか……。祖母は一人で近所の練習場を歩き回ってクラブチームを探すことにした。

 とある練習場では、ひとまず右翼奥からじっと練習を観察。次に、チームの代表者のところまで近づいて、「孫が野球をやっているのですが……」とクラブのルールなどを質問した。ここなら大丈夫――。そうして入団を勧めたのが軟式野球チーム「藤華クラブ」だった。現在の座右の銘である「謙虚」を学ぶなど、栗林の将来を大きく左右することになるチームに出会えたのは、間違いなく祖母のおかげだった。

 そして現在は、テレビを通して広島で暮らす孫を応援する日々である。しかし、東京五輪のときだけは、これまでと明らかに様子が違った。どんなときも応援し続けてきた祖母が、栗林の登板のときはテレビから目をそらしたのだ。理由は「怖くて見られないから、お父さんに神頼みする」。亡き祖父の力を借りようと、目を閉じて祈ってくれた。侍ジャパンの運命を決める守護神に選ばれたことは、家族にとってもこれまでにない一大事だった。