1ページ目から読む
2/2ページ目

翁田と球団の間で食い違う「適性」の認識

 とはいえ、気になる部分もある。ドラフト1位指名直後の記者会見で、原辰徳監督の口から「先発完投」「ジャイアンツのエース」といったフレーズが飛び出した。球団サイドとしては先発型として翁田を評価していることがうかがえるが、翁田自身は「リリーフ向きだと思う」と真逆の考えを示しているのだ。

 チーム事情としては、翁田がブルペン陣に加わってくれたら大きな戦力アップになる。今季は矢継ぎ早にリリーフを投入する「マシンガン継投」の影響か、中継ぎ陣に疲労が目立ち盤石とは言えなかった。そこへ独特の角度から腕が出てくる翁田の個性が加われば、相手チームにとって脅威になる。

 また、「巨人のドライチ」というプレッシャーも内なる敵になる。2017年にドラフト1位で鍬原拓也を指名した際も、私はコラムで「本来は2位で指名したかった」と書いている。熱狂的なファンが多く、メディアにも大きく扱われる巨人で、ドラフト1位ルーキーに求められるハードルは必然的に高くなる。並みのメンタリティーでは、重圧に潰されてしまいかねない。

ADVERTISEMENT

 右肩上がりでドラフト指名にこぎつけたとはいえ、翁田が残した実績は乏しい。ファンはいきなり結果を求めすぎず、長い目で見守りたいところだ。

ドラ5の岡田は大化けの可能性も

 支配下で指名した7人中6人が投手。原監督は上位3投手について、「先発ローテーションを目指して十分戦える3人」とコメントしている。だが、2位の山田(JR東日本)も翁田と同様に今秋にかけて急激に力を伸ばしてきたタイプで、即戦力らしい確固たる実績はない。むしろ3位の赤星(日本大)は実戦型だけに、1年目から結果を求めていきたいところだ。

 かといって、山田が期待薄かと言えばまったく違う。外れ1位でもおかしくない潜在能力の持ち主であり、「よく2位で残っていた」という逸材である。JR東日本に入社して3年目の夏まで、実績は皆無と言ってよかった。だが、今秋の都市対抗予選ではエース格となり、1戦投げるたびに急激な成長を見せていった。

 スイッチが入ると「オ~ラァー!」と雄叫びを挙げ、最速153キロのストレートがうなりをあげる。ドラフト当日にも大事な公式戦を戦い、延長18回まで9イニングにまたがる超ロングリリーフ。翌日も好リリーフでチームを都市対抗へと導いた。21歳という若さも大きな魅力だ。

 まだ力任せな部分もあり、球筋は荒れ気味。それでも、いずれは先発ローテーションの一角を占めてもらいたい左腕である。

 下位指名で推したいのは、5位の岡田(法政大)だ。長打力が注目される打者だが、プロですぐ存在感を発揮するのは強肩かもしれない。エネルギッシュな腕の振りから放たれる、低くて伸びるスローイングは圧巻。そこへ打撃の技術がついてくれば、とてつもない選手に化けるかもしれない。

 育成ドラフト会議ではソフトバンクの14選手に次ぐ、10選手を指名。快足を武器にする育成1位の鈴木大和(北海学園大)や身長195センチの大型左腕・鴨打瑛二(創成館)など、一芸に秀でた選手やスケールの大きな選手を多数指名している。

 近年のドラフト会議でも着実に好素材を確保できているだけに、今後も3軍制の利を生かしたチーム運営を期待したい。

 巨人に指名された17人の選手は、まだスタートラインに立ったに過ぎない。プロに進んだ大半の選手が、志半ばで球界を去るという現実もある。

 それでも、野球ファンは夢を見る。彼らが厳しい世界で一回りも二回りも大きくなり、今まで以上に面白い野球を見せてくれることを。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2021」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/48962 でHITボタンを押してください。

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。